中村 亨の【ビジネスEYE】です。
箇条書きは、単に羅列化や構造化をすればよいというものではなく、相手にもっと読み進めたいと思わせるように、「構造化」・「物語化」・「メッセージ化」の三要素を加えて磨く必要があります。
前回のメルマガでは、『超・箇条書き』(ダイヤモンド社 / 杉野 幹人 著) を基に、全体像を瞬時に相手に伝える「構造化」についてお伝えしました。
本日のメルマガでは、第二の要素となる「物語化」について考えてみます。
『超・箇条書き』の第二の要素「物語化」
「構造化」により、情報の要素ごとに整理された箇条書きは、時間軸が整理されることから、全体像を一瞬で伝えることができます。
ただし、それだけでは相手の関心を引くことはできません。いかに相手の心に突き刺さり、アクションへつなげる文章が書けるかがポイントとなります。そのために必要なのは「フック」であると、杉野氏は言います。フックとは、魚釣りの「かぎ針」のように、相手の関心を引き付け、手繰り寄せる役割を果たします。
杉野氏は、相手が興味を引く「フック」となる要素を箇条書きに埋め込むことが必要だと説きます。戦略的に「フック」を使うためには、相手を知り、状況に合せることが求められます。それが、杉野氏が第二の要素として挙げた「物語化」です。
物語化のためのコツ ~イントロづくり~
イントロとは、箇条書きで最も大切な冒頭の文章のことです。最初に目に入る部分なので、相手の関心を引き付けることができます。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった……」
日本人初のノーベル文学賞を受賞した川端康成氏の小説『雪国』の冒頭文です。印象的な冒頭文は、今後の展開を予感させ、読者を引き付ける鍵となります。このように、イントロ部分は相手に関心を持ってもらうために核心となる言葉を最初に伝えることが大切です。
一般企業における、事務職の面接の事例を挙げてみましょう。面接官の質問に対し、どちらの回答がより良い印象を与えるでしょうか?
【事例.1】質問「あなたの強み・職務経歴を教えてください」
A.解答例
・学生時代にコールセンターでアルバイトをしていました
・コールセンターでの経験があったので、前職ではクレーム処理も行っていました
・私の強みは、電話応対と傾聴力です
B.解答例
・私の強みは、電話応対と傾聴力です
・コールセンターでの経験があったので、前職ではクレーム処理も行っていました
・学生時代にコールセンターでアルバイトをしていました
A、Bともに回答内容は同じで、順序だけが違います。面接官にとって印象が良いのは、『B』ではないでしょうか。理由は明確です。質問に対する回答をイントロ(冒頭)で返しているからです。そして、その補足となる職務経歴を説明しています。
面接官は日に何人もの候補者を面接していると推測されます。質問に対する回答が後回しにされれば、無意識にストレスを感じるものです。イントロで回答するだけで、面接官の心証は格段に違ってくるでしょう。ビジネスにおいて「話をスムースにできる」ということは、それだけ重要なことなのです。
物語化のためのコツ ~固有名詞を使う~
相手に関心をもたせるため、「固有名詞」を効果的に使うことも、コツの一つです。一般名詞とは違い、固有名詞には「具体的なイメージを連想しやすくなる」効果があります。これにより、受け手は「自分に関係あるもの」と認識するようになり、取り組み方にも違いが出てきます。
大学生が採用面接に臨むためのエントリーシートの事例を挙げてみましょう。どちらが、面接官にストーリーとして印象に残るでしょうか?
【事例.2】エントリーシート
A.一般名詞を使用
・私は海外在住の経験があります
・ホームページに出ていた社員の方の考え方に共感し、刺激を受けました
B.固有名詞を使用
・私はシアトル在住の経験があります
・ホームページに出ていた営業部の佐藤さんの考え方に共感し、刺激を受けました
A、Bともに回答の内容自体は同じですが、受ける印象は違うのではないでしょうか。Aでは「海外/社員の方」とぼんやりしていますが、Bでは「シアトル/営業の佐藤さん」と限定しています。仮に、面接官がシアトルに思い出があれば、親近感を覚えてもらえるかもしれません。さらに「営業部の佐藤さん」と限定したことで、「佐藤さんに共感するのならば、うちの会社に合った人材かもしれない」となるやもしれません。
フックと固有名詞を適切に使うことができれば、より多くのメッセージを的確に伝えることが可能となります。「短く、魅力的に伝える」メソッドは、ご自身の評価と信頼に必ずつながるものとなるでしょう。
次回は、「超・箇条書き」の最後の要素「メッセージ化」について、お伝えいたします。
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