中村 亨の【ビジネスEYE】です。
今期の業績見通しが63億円の赤字となることを発表した大塚家具。
販売不振が止まらず、前期よりも赤字幅が拡大する見通しとなりました。お家騒動の末に大塚久美子社長が経営権を握ってから約2年半が経過。新戦略を打ち出すも結果は伴わず、かえって戦略が裏目に出ているようです。
今回のビジネスEYEでは、大塚家具の課題と題してお届けします。
580億円あった売上高が約3割減に
大塚家具の売上高は、2015年決算の段階では580億円ありました。しかし、その後の戦略転換の影響もあってか、翌年は約2割減の464億円、さらに2017年の売上高は年間420億円のペースとなっています。
本業の儲けを示す営業利益は43億8,300万円の赤字(2017年12月期の業績予想)であり、家具の売れ行きが不調であることが伺えます。
「会員制」を廃し、リユース事業に力を入れる戦略が裏目に
久美子氏が経営権を握るようになった2015年7月からは、「高級家具が強みの専門店」から「気軽に立ち寄れる店」への脱皮を目標に、会員制を廃する新方針を掲げています。
久美子氏の父親である創業者・大塚勝久氏は、店員が顧客と一緒に店内を回るという「会員制」の接客スタイルを実践してきました。しかし、2000年頃からニトリやIKEAといった、低価格で気軽な家具店が成長してきたことから、久美子氏は父親が築いた「会員制」という接客スタイルを時代遅れだと考え、カジュアル路線を打ち出しています。
新しい顧客への間口を広げるため、注力したのが「リユース」事業でした。お客様から買い取りした商品(リユース品)を中心に、アウトレット品や数量限定のお買得品(新品在庫品)などを揃える事業です。しかし、高級家具を販売する一方、違うフロアでは低価格品のリユース品を販売したことで、「大塚家具としてのコンセプト」が不明瞭となり、結果として、お客様離れが進むことになりました。
店舗規模の適正化
リユース事業のメリットとしては、店の敷居を下げたことで客層が広がり、顧客数を伸ばすことができることにあります。ただその反面、顧客単価の下落といったデメリットも内包しています。事業モデル転換を実行するためには、コスト構造の見直しに着手することが必須です。
大塚家具は、賃借料として毎年100億円強負担しています。まずは、店舗規模の適正化に着手すべきでしょう。実際、全国21店舗を展開するうち、8カ所は売り場面積が9,000㎡(約2,700坪)を超える大型店です。単純比較はできませんが、ニトリで最も大規模な店舗は6,600㎡(約2,000坪)。効率的な店舗運営を考えるのであれば、改善の余地があるでしょう。
久美子氏も黙って手をこまねいているわけではありません。「次世代店舗網」として、下記の施策に取り組んでいます。
〇 小型店を中心とした出店攻勢(直近2年で14店舗をオープン)
〇 既存の中・大型店については、閉鎖・移転などの再編を進め、2019年までに3,000~7,000㎡規模の店舗を15~20店舗にする
こうした店舗網の見直しに取り組んではいますが、数字に大きく現れるのはまだ先になりそうです。
コスト構造の見直し
低~中価格帯の家具市場では、ニトリが大きく売上を伸ばしています。
2017年2月期の売上高は約5,129億円と、大塚家具の約10倍となりました。ニトリの強みは、自社生産商品を自社で売るというSPAによる利益率の高さでしょう。さらに、採算性を示す「販管費」の低さも挙げられます。2017年上半期のニトリの販管費が34.6%だったのに対し、大塚家具は63.9%。扱う商品の価格帯が違うということもありますが、リユース事業で同じ領域に進出するわけですから、言い訳にはなりません。また、販管費のなかの人件費割合にも 要注意です。(参考:日経新聞2016.6.28「大塚家具、事業モデル転換よりも大切な課題」)
2017年8月9日、2017年12月期 第2四半期決算短信の「訂正」を発表した大塚家具。株価は年初来安値の826円をつけました。
業績悪化、株価低迷。久美子氏には、即効性のある施策が求めらます。事業モデルの転換は、例え時流に沿ったものであっても、同業他社との差別化は容易なものではありません。
店舗戦略やコスト構造の早期見直しなど、多くの課題が残されています。
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