部下が自ら動きだす マネジメント術(1)- 部下の価値観を知る(Vol.350)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

世界企業「インテル」で、クビ寸前から世界トップ0.5%に選抜され、最終的には日本法人の執行役員にまでのぼりつめた板越正彦氏。一時は、部下から最低評価を付けられたこともありましたが、それを契機にコーチングを学び実践したところ、劇的な変化があったそうです。
その経験をもとに『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(板越 正彦著/かんき出版)を出版されました。

今回は、「部下が自ら動きだす マネジメント術(1)」をお届けします。

部下マネジメントの“しくじり”が転機に

板越氏は、東京大学文学部心理学科卒業後、石油化学メーカーJSRに7年勤務しました。その後、サンダーバード大学大学院にてMBAを取得し、国連UNESCO勤務を経て、1994年にインテルに入社したそうです。

インテルでは、シリコンバレー本部での勤務を含めて15以上のセクターで活躍し、順調に業績を上げ本部長に昇格しました。しかし、昇格直後の赴任先で思いもよらぬ事態に陥ります。

インテルでは、「360度フィードバック」という人事評価制度があり、部下からの評価で「100点満点中80点以上」を取らないと、次のクラスに進めないことになっています。その360度フィードバックで、なんと『20点』を付けられてしまったのです。ほぼクビ寸前の状態。危機感から板越氏は「自分を変えなければならない」と『コーチング』を学び、部下との付き合い方を変え始めたそうです。

部下が大事にしている価値観を知ることがポイント

時代に合わせて部下育成のやり方を大きく変えなければならないと、痛感した板越氏は、インテル在籍中の2012年にビジネスコーチ社でコーチングの資格を取得しました。部下がワクワクする価値観を積極的に知り、それと会社のゴールを結びつけるような指導方法に切り替えたそうです。すると、チームの業績が大幅にアップしたそうです。

一人ひとり異なる価値観を上司が知るためには、まず「聞く」ことが重要になります。

個別に話をして「どういうキャリアを歩みたいか?」「将来は何がしたいのか?」などの質問からスタートします。すると、「営業を頑張りたい」「技術者としてセミナーを開催してみたい」など、人によって様々な答えが返ってくるそうです。その実現のために何をすればいいのか、小さなステップに落とし込むなどし、部下に寄り添うような育成法が必要となるそうです。

昔と同じ育成方法ではダメ

板越氏がプレーヤーだった頃は、“Up or Out(昇進するか、それとも会社を去るか)”といった時代であり、がむしゃらに頑張る人が評価されていました。そのため、上司からも「自分で考えろ」「頭を使え」など、抽象的で鼓舞する言葉が多かったそうです。しかし、時代が変わり「ワークライフバランスに配慮したい」「みんなに貢献したい」といった多様化した価値観が存在する世の中となりました。出世や給料アップを一斉に目指すという時代ではなくなったのです。

「よき上司」を目指し、板越氏は部下の行動や業績を細かくチェックしたり、ミスを敢えて厳しく注意しました。しかしながら、部下には響かず、結果として最低評価を下されてしまいました。今の時代は、部下の個別対応が求められているようです。

部下のやる気スイッチを入れる6つのステップ

著書で板越氏が紹介している、部下のやる気スイッチを入れる方法を簡単にご紹介します。

【ステップ1】まず部下との距離を縮める
【ステップ2】部下の「ワクワクポイント」を探る
【ステップ3】「仕事で何を実現したいのか」を考えてもらう
【ステップ4】部下の本音を引き出す
【ステップ5】部下のワクワクエンジンを起動させる
【ステップ6】ワクワクエンジンを本格稼働させる

この手法により、以前は何度伝えてもなかなか理解してくれず、思い通りにならなかった部下が、みちがえるように仕事に専念し、成果をあげてくれるようになったそうです。毎日褒めたり叱ったり、細かく気を遣わなくても良くなり、職場の雰囲気も改善されたそうです。

上記以外にも、部下の成長度合いや悩みのタイプから33の「シーン(場面)」を設定し、「シーン」に応じた「声のかけ方」や「話の聞き方」が解説されています。部下が自分で考えて動きだすように指導したいと悩む方は、上記のようなことから始めてみると良いのでしょう。【参考:『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(板越 正彦著/かんき出版)】

日本的経営慣行が薄れつつあることに加え、インターネットの普及により情報環境が以前とは全く異なる現代。そうしたビジネス環境の変化に伴い、日本企業の組織がそれまでの「野球型」から「サッカー型」に変化しているようです。

「野球型」の特徴

 ・個人に求められる役割が「ピッチャー」や「レフト」など明確に決まっている
 ・一人の優秀なエース(ピッチャー)の存在に勝敗が左右される傾向がある
 ・監督やコーチの指示のもと、場面に応じて自分の役割を全うすることが求められる
 ・原則として、勝敗が決まるまで延長して戦う(時間に制限はない)

「サッカー型」の特徴

 ・一人ひとりが監督の思い描くチーム像を理解した上で、臨機応変な対応が求められる
 ・一人の優秀なエースがいたとしても、チーム全体で戦わないと勝利できない傾向がある
 ・監督やコーチの指示を待たずに、現場で判断できる人材が必要である
 ・原則として、90分という時間の中で勝敗が決まる(時間に制限がある)

プレイングマネージャーの増加など日本企業の組織が変化するなか、部下の能力をいかんなく発揮させるためのマネジメント術や、会社と個人の関係について、今一度見直すときが来ているようです。

 

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