部下が自ら動きだす マネジメント術(2)- コーチングの考え方を活かす(Vol.351)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「部下が能動的に働いてくれたら、どんなに楽だろう」
「短い報告や指示のみで部下と意思疎通ができたら、どんなに仕事が捗るだろうか」

皆さんは、このように思ったことはありませんか?
今の時代、理想の上司と部下の関係をどのように築いていけばよいのでしょうか。

前回に引き続き、「部下が自ら動きだす マネジメント術(2)」をお届けします。

コーチングの考え方をビジネスの場面に活かす

板越氏は「誰かに何かをやってもらうには、相手のモチベーションが上がるポイントを探ることが大切」とし、そのためには、まず自分から相手に質問して、話を聴かなければいけないと説いています。

働く人々の価値観が多様化するなかで、自分とタイプや価値観の違う相手とチームを組む機会も必然的に増えています。どのような人材とも気持ちよく仕事ができるかという点も、職場で求められる重要なスキルとなってきています。

部下を自分で走らせるための「フォローアップ」

著書の中で、様々なシーンを想定した質問やキーワードを紹介しています。ここでは、『昇進を望まない部下、今のやり方を変えたくないと考える部下』に対するフォローアップを紹介いたします。

現状維持の状態を放置すれば、成長が止まってしまう恐れがあります。成長を拒む人は、目先のことにのみ囚われ、視野が狭くなっている可能性があります。

最近の若者が昇進を望まない理由として、次のようなことが挙げられます。
 ・給与が減る(残業代が支給されなくなる)
 ・業務量が増加する
 ・重責を担うことになる
 ・自分の時間が削られる

このように、昇進に対してネガティブなイメージを持つ若者に対し、給料面の優遇を訴えても、決して心に響きません。このような若者に対しては、10年後や20年後をイメージさせるような質問を投げかけ、視野を広げることを第一に考えます。具体的にイメージできれば、思考は少しずつ変化していきます。

この時の注意点としては、会社側の都合を一方的に押し付けないということです。あくまでも、部下自身が将来もワクワクしながら働くことができ、さらに新しいチャレンジができるようになることをイメージさせることがポイントです。

【現状維持を望む部下にスイッチを入れるひと言】

 ・「10年後の自分はどうなっていると思う?」
 ・「本当に変わらないままでいいのかな?」

壁に突き当たった部下を支援する「コーチング」

部下がトラブルやミスに見舞われた際、皆さんはどのように接していますか?
取引先からのクレームなど、トラブルに見舞われた時、叱り飛ばしたい気持ちになりますが、部下に詳細を伝える前に、部下の口から話を聞き出すのが第一歩となります。

つまり、上司がとるべき対応とは、「解決策を命じることではなく、部下の話にじっくり耳を傾けること」なのだそうです。
そうすることで、自然と問題に向き合う意識になり、トラブルの原因をさぐるようになります。当たり前ですが、上司が勝手に「君に問題があったんじゃないの?」などと勝手に分析することは、NGです。

【トラブルの原因を自分で考えさせるためのひと言】

 ・「自分で気付いたことはある?」

叱責から対話へ

インテル在籍時には板越氏も、部下を叱り飛ばしていた経験があるそうです。当時のインテルの管理職は、部下の意見に対して下記のように非難することも多かったそうです。

 ・I do not understand. (理解できない)
 ・I hear you, but I do not like your answer. (主旨は分かるけど、その答えは好きではない)

大勢の前でこうした言葉を投げかけられると、プレッシャーに強いアメリカ人でさえ、感情を堪えることができず、会議で泣き出してしまうことがあるそうです。

板越氏も、ピンと来ない企画書や提案書を部下から受け取った際には、部下の目の前で破いて「やり直し」を命じたこともあったそうです。退職者も大勢いたそうですし、トラブルを報告しない部下もいたそうです。ちなみに、「360度フィードバック」で最低ランクを付けられたことを機に学んだ、コーチング手法を取り入れてからは、部下と良い関係を築けたそうです。

今の時代、大勢の前で叱ったり、強制的にやらせたりする指導方法は、成果を生み出さず部下を委縮させるだけであることに気付いたそうです。「何度も同じことを言わせるな」「自分で考えてよ!」と部下の心をえぐるような発言をしている人は、言葉の使い方に注意した方が良いかもしれません。参考:『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(かんき出版)

ヤフーにみるコーチング術

コーチングの手法を取り入れた部下の指導方法としては、「1on1ミーティング」を導入していることで広く知られる、IT企業・ヤフーが有名でしょう。隔週1回以上、上司と部下が約30分の話し合いを行う「「1on1ミーティング」は、「コーチング」「ティーチング」「フィードバック」といった話を聞くための3つのスキルが必要だそうです。そのため「コーチング」については管理職研修も行っているそうです。

また、ヤフーだけではなく日本ヒューレット・パッカードでは、2週間から1カ月に一度、マネジャーと部下が「1on1」を行い、今後のキャリアプランについて重点的に話し合っています。キャリアカウンセラーのように、マネジャーは部下のキャリアプランに対してアドバイスしたり、将来就きたいと思う職種の人と話をする機会を設けたりしているそうです。

こうしたミーティングにおいては、8割程度は部下が話すように仕向ける必要があり、また、業務上の確認や連絡に終始することなく、様々な視点の質問を投げかけることが求められます。部下が自ら動き出すマネジメント術を手に入れるには、上司の聞く力・引き出す力が問われているといっても過言ではないでしょう。

過去のリーダーの仕事は「命じること」だが、未来のリーダーの仕事は「聞くこと」が重要になる。
(米・経営学者 故ピーター・ドラッカー氏の名言)

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