部下が自ら動きだす マネジメント術(3)- 生産性の改善へ(Vol.352)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

 第1位「常識でしょ(当たり前でしょ)」13.6%
 第2位「そんなこともできないの?」  12.6%
 第3位「前にも言ったよね?」     12.0%

これらのフレーズのランキングが意味するものが分かりますか?

実はこれ、薬酒メーカーの養命酒製造が実施した「ビジネスパーソンの疲れの実態に関する調査2017」で判明した、上司から言われて「疲れ」が倍増したフレーズです。頼りにした上司から、突き放されたような、嫌味を多分に含んだ言葉を浴びせられたりと、現代のビジネスパーソンは疲れを溜めやすいようです。

前回のメルマガに続き、元インテル株式会社(日本法人)執行役員の板越正彦氏の著書を軸に、「部下が自ら動きだす マネジメント術(3)」をお届けします。

一人ひとり価値観の異なる部下を束ねるには

1990年代以降、経済成長の鈍化などを背景に、非正規雇用が拡大している一方で、「終身雇用」が基本とされた社員でも転職が活発化している現状があります。フリーランスや副業という選択肢もよく耳にするようになり、働くことに対する価値観は以前より多様化しています。前回、異なる価値観を持つ部下を束ねるためには、一人ひとりの働く背景や価値観を知ることが重要だとお伝えしました。

【前回までのポイント】
・部下がワクワクする価値観を知り、それと会社のゴールを結びつけることが有益
・上司が一人ひとり異なる価値観を知るには、まず「聞く」ことが重要

部下と話をするときの5つのヒント

部下と話をするときの大前提は、部下により多く話してもらうことです。頭では理解しているつもりでも、実際にはできていない上司も多く、「その気持ち、わかるよ。俺も若い頃にさぁ…」と語り始めてしまったりするようです。

そうならないためにも、下記の(1)~(5)を心がけてください。

(1) 話を途中で遮らない
(2) 誘導しない
(3) 質問は短く
(4) 答えを出すのを急がせない
(5) うまくやろうとしない

(1) 話を途中で遮らない

部下がどんな話をしても、最後まで聞くというのが絶対的な条件です。途中で遮りたくなる気持ちも分かりますが、ここはグッと堪えましょう。ちなみに、会話のバランスの目安として、「話を聞く」のが8割、「話をする」のが2割ぐらいが良いそうです。

(2)誘導しない

従来のコーチングでありがちなのは、上司が求める答えに部下を導くことです。

 「自分でもこの結果には納得してないんじゃないの?」
 「本当にそれでいいと思ってるの?」

上記のような聞き方では、回答の選択肢が絞られるため、流れに沿った返答をしようと必死になります。そのうち、質問自体が「強制」と認識してしまい、心を閉ざしてしまいます。本音を引き出すためにも、部下の話はそのまま受け止めるようにしましょう。

(3)質問は短く

話が長い上司の典型に、自分の想いを一方的に語り、最後に「それで、君はどう思う?」と質問する方がいます。これでは、部下は上司の話のどの部分に対して答えればいいのかわかりません。質問は二言三言で済むぐらい簡潔にすると、部下は答えやすくなります。

(4)答えを出すのを急がせない

想定外の質問が投げかけられた場合、部下は黙って考え込んでしまうでしょう。そういう場合は答えを急がさず、沈黙を受け入れることが重要です。繰り返しになりますが、上司が答えを先取りして「こういうことじゃないかな」と言うのは絶対にNGです。

(5)うまくやろうとしない

部下との会話の最中に次の質問を考えてしまうと、リスニングが疎かになってしまいます。とっさに質問が考えつかないときは、「今の話をもっと詳しく聞かせて」などと、部下により深く考えてもらうような流れを作りましょう。

参考:『部下が自分で考えて動き出す 上司のすごいひと言』(かんき出版)

心理的な安心感が生産性改善のベースとなる

労働時間の削減や生産性向上のために政府が「働き方改革」を推進していることを契機に、多くの企業が働き方の見直しに積極的に取り組み始めています。米・グーグル社は、2012年から「働き方」に注目し、高いパフォーマンスを生み出すチームの分析を行っていました。その名も「プロジェクト アリストテレス」。

プロジェクトの結論はというと…「心理的な安心感を生み出すような関係性のあるチームは高いパフォーマンスをあげている」ということでした。
 ・「自分らしくいられる」
 ・「自分の弱みもチームが受け入れてくれる」
 ・「失敗を恐れずにチャレンジできる」

「イノベーションとは、一人の突出した天才が生み出すものではなく、チームが最大限の力を発揮した時にイノベーションが起こる」、グーグルの理念です。単に、才能のある多様な人材がチームを編成するというのではなく、ボスの意向を忖度したり遠慮したりせずに、自由闊達に議論できるという安心感が製品・サービスづくりに反映されるというのです。

グーグルとは規模も異なるため、単純に比較できない点も多いと思われますが、チームの力を最大限に引き出すための努力というのは、どの企業においても同じではないでしょうか。

これまでの価値を大きく変えるような新規事業・イノベーションも、最初は他愛もない雑談からスタートしたはずです。部下の価値観を理解し、信頼関係を築くことで、イノベーションの原石となるアイデアを発見できるかもしれません。間違っても、冒頭のような「常識でしょ(当たり前でしょ)」や「そんなこともできないの?」といった言葉は使わないようにしたいものです。

 

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