中村 亨の【ビジネスEYE】です。
一時は「地方銀行の優等生」とされたスルガ銀行が大きく躓いています。女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」に対する融資の審査書類が偽造された問題で、金融庁が立ち入り検査に踏み切りました。「数字第一主義」に傾倒した経営に対し、厳しい視線が向けられています。
本日のビジネスEYEでは、「数字第一主義」を考察します。
個人向け融資が全体の9割を占める独自路線
スルガ銀行(本店:静岡県沼津市)は、静岡東部および神奈川西部を地盤としています。日本有数の地銀である「横浜銀行」と「静岡銀行」に挟まれた地理的な要因もあり、スルガ銀行は、企業融資のみならず、個人に対するリテールバンキングを中心とした独自路線に大きく舵を切りました。
単身女性や転職者への住宅ローン、会社員への不動産投資ローンなど他の地銀とは違う顧客層にアプローチし、リスクをとって積極的に融資を行った結果、人口減少や超低金利の環境下においても、高い収益を上げることに成功しました。金融庁は「地銀のお手本」と称えるほどの勢いでした。また、2003年には、ユニークな商品展開が評価され「ポーター賞」を受賞しています。
※ポーター賞とは…独自性のある優れた戦略を実行している日本の企業・事業を対象に授与されるものです。
地銀の競争が激化
しかし、2013年の日銀の異次元緩和、2016年のマイナス金利政策などが影響し、有力地銀や大手銀行が、次第にスルガ銀行の個人顧客に激しい借り換え攻勢をかけ始めました。スルガ銀行の個人顧客は、比較的高めの金利(アパートローン:3~4%台)だったため、超低金利を理由とした借り換え需要を狙われたのです。
打開策として打ち出したのが、現在問題となっている女性専用シェアハウス「かぼちゃの馬車」への融資でした。2018年3月末時点で、シェアハウス向け融資は、2,035億円の融資残高があり、対象顧客は1,258名にも上っています。多くの負債を抱えてしまう状況に陥っています。
数字第一主義
一部報道によると、融資に必要な審査書類に「改ざんデータ」が使われたようです。融資の審査が通りやすくなるように手心が加えられていた可能性が取り沙汰されています。この不正融資の背景には、経営トップからの指示、または組織的な増収増益達成へのプレッシャーがあったと推測されています。
上場企業が増益を目指すことは当然です。ただ、ノルマ未達だと上司から激しく叱責・罵倒されたとなれば、パワハラの懸念もあります。審査書類の改ざんを黙認・主導するなどの不正があったとすれば、数字第一主義にとらわれ、コンプライアンスを無視していたことになります。
悪質タックル問題との共通点
一時期に比べ報道は減りましたが、少し前までは「日大アメフト部の悪質タックル問題」が話題になっていました。アメフトの日本大学と関西学院大学の定期戦において、日大の選手が関学大のクォーターバックに危険なタックルをして負傷させた問題です。監督の指示の有無が焦点となっていましたが、負傷させた選手による実名での記者会見や、関東学生アメフト連盟によるヒアリング調査などが実施され、最終的に日大の内田正人監督が同部の監督と大学の常務理事職を辞任することで収束しました。
この問題の本質にあるものは、スルガ銀行と同様、監督や上司が強大な権限をもっている点です。日大アメフト部では、内田前監督に対して部員やコーチ達も逆らうことができず、指示通りに動かなければ試合に出場させないといった、内部の論理が優先されていました。「勝利至上主義」に陥り、大学という教育の場でありながら、スポーツマンシップに反する悪質な行為を部員に指示してまで、勝利を手にしようとしたことに強い非難が集まりました。
スルガ銀行の場合は、審査部門よりも営業部門が、発言権が強かったと伝えられています。行内のコンプライアンスがきかず、「数字至上主義」が強過ぎたことへの弊害が顕著となったケースでしょう。
コーポレートガバナンスコードは導入されたが…
上場企業においては、2015年よりコーポレートガバナンスコードが上場規程に定められました。企業を統制し監視する仕組み、株主との対話などに関する指針が示されており、法令順守はもちろん、ガバナンスが企業に取り入れられる契機となりました。しかし、社外役員制の導入などでガバナンス先進企業と評価されていた「オリンパス」や「東芝」においても、経営者の暴走を防ぐことはできず、見通しの甘い企業買収に至ってしまいました。ガバナンスの形式要件を整えることのみに注力し、本質的な意味での経営改革に至っていない企業が多数存在しています。経営者の圧力、監査役の機能不全、内部統制のゆるみなどが原因とした不正事件は後を絶ちません。内向きの組織が抱える問題点は大きくなるばかりといえるでしょう。
強すぎる「数字第一主義」「勝利第一主義」は、組織を疲弊させ視野を狭くします。旧態依然の組織を放置すれば、いずれ競争力を失います。今後、ますますダイバーシティやグローバル化が進むなかで、そうした内向きの組織は後れを取るばかりと言わざるを得ません。
自分の属する組織が、自分の子供や家族に胸を張って誇れるものか、実態はどうであるか、時折振り返ってみることが肝要です。
企業理念や行動基準はただのお飾りではありません。実際に人々に届き、共鳴してこそ初めて意味を成し、組織にその理念が浸透するのです。
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