中村 亨の【ビジネスEYE】です。
『電通の虚偽請求 不正ではなく不適切と強弁 広告主第一主義はどこへ』(週刊エコノミスト / 2016年10月11日特大号)
国内最大手の広告代理店である電通。2016年12月期(第2四半期)の売上総利益は、1,824億67百万円。就職人気企業ランキングでも上位にランキングするなど、その影響力は非常に大きいものがあります。その電通が、デジタル広告サービスにおいて「不適切」な業務が行われていたことを公表しました。本日のメルマガでは、不祥事により毀損した信頼関係を回復するための手段について考えます。
不適切な業務の中身
電通の発表によると、パソコンやスマートフォンの画面に表示される『バナー広告』や動画が流れる『動画広告』で、今回の不適切な業務が行われていました。現在、判明しているのは下記のとおり。
・ 疑義のある作業案件…633件
・ 対象となる広告主数…111社(取引金額概算:約2億3000万円)
・ 広告自体が未掲載 … 14件(取引金額概算:約320万円)
※年末までの調査と確認された全ての事案の公表を予定
広告の分類としては「インタレストマッチ広告」と呼ばれるもので、利用者の情報(アクセスするサイトの傾向、検索実績、購入履歴など)を元に、関心が高いと推測される広告を表示する仕組みを利用したものです。広告主にとってこの仕組みは大変有効なもので、ターゲットへの効率的なアプローチが可能となるだけでなく、これまで分散していたコストを一点に集中させることもできます。
問題の発覚と原因
問題の発端は、広告主からの指摘だったようです。「掲載されているはずの期間に広告が掲載されていない。」これが一広告主からの指摘であれば、定型の回答で終わりとなっていたでしょう。ただ、今回の広告主はあのトヨタ自動車。契約を失えば、大損失となります。ゆえに、社内調査へと踏み切ったのでしょう。
データのある2012年11月以降を調査すると、掲載期間のずれ、未掲載、運用の虚偽報告や架空請求等々、問題が山積していたようです。記者会見の中で、中本副社長が発生原因について次のように述べています。
「運用型デジタル広告は、クライアントからのニーズが増えているジャンル。現場は恒常的に人手が不足している。ただ、それをできないとか、時間がないとか、あるいは自分の力がないと言い難いというような状況があったということは、現時点では(要因の)ひとつの例としてだが、わかっている。これが根本原因かについては、調査の報告を待ちたい。」
問題の根底ある企業体質
不正会計のあった東芝の企業体質と重なる部分があります。東芝の場合はトップダウンでしたが、今回は現場の歪みが露呈した格好です。大企業、広告マンとしてのプライドが、いつしか理念であった「クライアント・ファースト」を捻じ曲げる結果となりました。
今回の問題を単なるヒューマンエラーとして処理するのではなく、企業体質の改善のチャンスと捉えるべきでしょう。また、企業・事業部として、標榜するだけの理念ではなく、従業員一人ひとりが「クライアント・ファースト」を体現していくことが何よりの手段となるのかも知れません。
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