『シャープ再建、鴻海精密工業と優先交渉 支援額約7,000億円』(ロイター通信|2月4日)
経営再建中のシャープ。業績悪化の一因である主力の『液晶事業』の価値は、未だ健在。いつの間にか「買い手市場」から「売り手市場」へと変貌しています。先日発表した2015年4~12月期の連結決算で赤字幅拡大となったにも係わらず、記者会見でどこか余裕をみせる高橋社長に違和感を感じずにはいられませんでした。
本日のメルマガでは「経営陣の覚悟」について考えてみたいと思います。
革新機構と鴻海
当初シャープは、液晶技術の海外流出を防ごうとする政府の意向を汲み、官民ファンド「産業革新機構(以下、革新機構)」からの出資を受け入れる方向で調整していました。ところが、台湾のEMS(電子機器受託製造サービス)大手の「鴻海(ホンハイ)精密工業(以下、鴻海)」が、破格の条件を提示してきたことで、状況は一変、鴻海と優先的に交渉すると公表しました。
革新機構
同機構は2009年、日本の次世代産業創出を目的に官民で設立されました。総額約2兆円の投資能力があり、過去には中小型液晶パネルの「ジャパンディスプレイ」や半導体メーカー「ルネサスエレクトロニクス」などへの出資実績があります。
【報道されている同機構の支援策】
・約3,000億円規模の出資、株式の過半数を取得(経営陣を刷新)
・主力取引銀行(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行)に金融支援を求める
・液晶部門を本体から分離、同機構が筆頭株主であるジャパンディスプレイと統合
・東芝との家電部門の統合を視野
鴻海
フォックスコン・グループ(鴻海科技集団)の中核会社で、世界最大のEMS企業。日本ではあまり馴染みのない企業だと思われがちなのですが、実は身の回りの多くは鴻海製品なのです。例えば、アップルのiPhone及びiPad。これは鴻海がアップルの委託を受けて生産しています。他にもソニーのPS4、任天堂のWiiU、DELLやIntelからも生産を受注しています。
【報道されている同社の支援策】
・約7,000億円規模の出資、事実上の買収
・事業分解せず、シャープのブランドを継続する
・主力取引銀行が主に保有する2,250億円相当のシャープ優先株の買い取り
シャープが希望する4つの条件
・シャープという会社のDNAを残すこと。(経営陣の温存)
・生産拠点を含めて従業員の雇用の最大化を維持すること。
・技術の海外流出の抑止
・単に資金だけの問題ではなく、これらの3つのポイントを加味した好条件であること。
両社の支援策を比べると、鴻海案の方がシャープにとっては魅力的でしょう。これまで築き上げた『シャープ』ブランドが継続される上、潤沢な資金を手にすることが可能だからです。もしこの提案を蹴って機構案を選択したとなれば、最悪のシナリオとして株主訴訟へと発展することが危惧されます。
企業再建へのファクター
企業再建を成功させるには、様々なファクターが必要となります。もちろん、その企業ごとにそのファクターは違ってきます。ことシャープにおいては、『経営陣・経営手法の刷新』がその一つに挙げられるでしょう。
シャープの経営陣が行った施策と言えば、5,000人規模のリストラ(国内外)、主力行から2,000億円規模の債務株式化、ファンドからの資金調達(250億円)など。資金調達能力に長けてはいるようですが、その先のビジョンを描くことができなかったようです。
これは経営者にとって致命的であり、当事者意識が欠落していると言っても過言ではありません。まるで「資金があればどうにかなる」と声高に言っているようなものです。この経営陣が主導する限り、いかに潤沢な資金を得ようとも、ブランド消失は時間の問題でしょう。
3月末には5,100億円のシンジケートローン(協調融資)が返済期限を迎えます。現状、鴻海から提示された好条件に浮かているようにみえますが、『再建』に踏み出すのであれば、その覚悟を経営陣自らが示すことが求められるのではないでしょうか。特に、シャープを築き、支えてきた従業員に対しては、それが責務であると言えるでしょう。
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