藤田晋氏に倣うリーダー論(2)(Vol.370)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

サイバーエージェントの藤田晋氏は、当時最年少であった26歳で上場を果たすと、その後種をまいた事業を次々と実現し、驚異的なスピードで成長を遂げてきました。どのような決意を胸に秘めて経営をしているのでしょうか?

今回のビジネスEYEでは、前々回に続き「藤田晋氏に倣うリーダー論(2)」をお届けします。

(前回のポイント)人材の育成と若手の抜擢

サイバーエージェントが事業の主軸としているインターネット産業では、人材の育成が企業の競争力に直結します。藤田氏は採用や人材の育成に力を注いでいて、若手を抜擢する「新卒社長」、次世代リーダー育成制度「CA36」等を通して社員一人ひとりがモチベーション高く挑戦できる環境づくりに注力しています。

さらに組織が大きくなり、社員のコミュニケーションが希薄にならぬよう、社員間のコミュニケーションを促進するために、総会、YCA、社員旅行、部活動、家賃補助制度「2駅ルール・どこでもルール」等の制度が整備されています。

変化慣れが成長を促す組織づくり

サイバーエージェントは普段は自由で個人の意思を尊重する会社ですが、藤田氏は、数年に一度、特に業績が落ち込んでいるわけではない部署の人数を半分にしたり、大胆な人事異動を促したりして、意図的に組織をかき乱すことがあるそうです。これはマンネリ化した組織を活性化させることが狙いですが、たいがいは効果がでるそうです。

それは、意識的に変化に慣れる工夫をしているためで、それまでの「型」を壊して新しい「型」をつくることは成長に欠かせないと藤田氏が考えているためでしょう。役員会でも、役員はなるべく同じ席に座るのではなく、席順を変えるようにしているそうです。さらに、3ヵ月に一度は雰囲気を変えるため都心から遠く離れたところに役員合宿にいって議論をします。その他にもプロジェクトチームのメンバーを入替えや、役員を変えるということも定期的に行うそうです。

麻雀で培った勝負強さ

藤田氏は学生時代、雀荘に入り浸るほどの麻雀好きで、プロ並みの腕前を誇りました。2014年、麻雀界の日本一を決める権威ある大会「麻雀最強戦」に出場し、並み居るトップレベルのプロ雀士を相手に優勝を果たしました。藤田氏は、麻雀と経営がお互いに好影響を与えあうのを感じているそうです。麻雀は配られる「牌」が毎回異なる上、4名で勝負するので、状況が刻々と変化します。ビジネスも同様で、様々なプレーヤーがいるなかで、経営資源である従業員や資金、事業といった「牌」をどう生かしていくか、コントロールできるかが問われます。

さらに、粘り強く勝負所がくるのを待つ「我慢強さ」「勝負勘」が磨かれているので、利益を出すのが難しいといわれていたアメーバブログを大規模なメディアに育てあげたときや、いち早くスマホ向けに事業構造をシフトしたときなど、大きな勝負では必ず勝ってきています。そうした勝負強さによって、結果的に会社を大きく飛躍させていると著書で述べています。

インターネットテレビ局 アベマTVとは?

「ネットとテレビの融合」を掲げ2005年にライブドア社がニッポン放送を買収しようとしたいわゆるライブドア事件がありました。インターネット業界からテレビ業界に提携をもちかけた出来事として記憶されている方も多いでしょう。その前後から、既存のテレビ局も無料でニュースを配信したり、過去に放送されたドラマ番組を有料で配信したりし始めました。さらに最近では、Hulu、Netflix、Amazonプライムなど、動画配信サービスが群雄割拠の状態にあります。

2015年にサイバーエージェントが開始したインターネットテレビ局、AbemaTV(アベマTV)は、インターネットさえ利用できれば、 誰しも楽しむことができる特徴があります。スマートフォンの普及により、テレビの前でしかテレビを視聴することができないことに不便さを感じている人が多くなり、そうした層を取り込む狙いがあるようです。

ひんしゅくを買ってでも挑戦を続ける

藤田氏は、これまで動画配信事業に過去3回挑戦していますが、通信環境の脆弱性等の課題もあり普及に至りませんでした。しかし現在は、スマホの普及により送受信できるデータ量も格段に増え、さらにLTEの普及により、多くのユーザーがスマホで動画を見られるようになりました。メディア事業は軌道にのれば大きな利益を会社にもたらすことから、藤田氏自らが総監督となって陣頭指揮を執っています。要求通りに動いてくれる人材を要所要所に配置してオリジナル番組などの企画・制作を行っているそうです。

昨年、将棋の藤井聡太四段の対局を配信したことで企画力が評判になった上、元スマップメンバーが出演した番組では延べ視聴数が計7,400万件超を記録して大反響を呼びました。ネットを熟知しているサイバーエージェントだからこそ、動画メディア事業をやるべきだとの強い覚悟が藤田氏にあるようです。

藤田氏が多い描くシナリオでは、アベマTVの収益の見通しは立っているようです。ビジネス環境が整いつつある今が勝負所なので、16年4月から2年半で500億円を投資して成長のための土台をつくっています。他人から何と言われようとも、ひんしゅくを買ってでも、最後に成功に導きたいと述べているそうです。(参考:日経テレコン21 /『運を支配する』(桜井章一・藤田晋著/幻冬舎新書))

会社経営は終わりのないマラソンのようなもの

「21世紀を代表する会社をつくる」という大きな目標を掲げて創業した藤田氏は、当時は週に110時間働くと決めて仕事に没頭していたそうです。すると、業績が伸び、新規事業が立ち上がるなどして、抜きんでた存在となっていきました。とはいえ、ITバブルの崩壊や買収の危機、株価低迷に伴って責任を問う声など、藤田氏が抱える苦悩も相当あったようです。
そうした逆境に遭ってもじっと耐えることで、その後アメーバブログを成功に導くなど動きの早い業界にあって先を見通す経営手腕は高く評価されています。

「会社経営は終わりのないマラソンのようなもの」と藤田氏は述べているように、創業社長としては、事業をやればやるだけ想いが強くなって、他人に引き継げなくなるのでしょう。仕事より面白いものはない、との持論も持っているようです。常に挑戦し続ける姿勢が話題を呼ぶ藤田氏ですが、勝負のときと覚悟して臨んでいるアベマTVは、テレビとも他の動画配信とも違った価値を提供できるか注目されます。

 

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