相続トピックス「遺産分割協議書」(Vol.385)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

相続が発生すると、大抵の場合、遺産分割協議書を作成します。しかし、全ての手続きが終わりホッとしたのも束の間、遺産分割の内容を巡って思わぬ問題が発生することがあります。

本日のビジネスEYEでは「遺産分割協議書」を考えていきたいと思います。

「遺産分割協議書」は想定外の事態も考慮しよう

◆ そもそも、なぜ遺産分割協議書を作成するのでしょうか

遺産分割協議書は、相続人同士で遺産の分け方について、話し合われた内容を書面にするものです。

遺産分割協議書作成の目的は、主に下記の2点です。
(1) 相続人の間での遺産の分け方の契約を証明する。
(2) 不動産の相続登記や預貯金の名義書換等の手続きのため。

遺産分割協議書の法的拘束力は強く、一旦、署名・押印すると訂正できないのが現状です。

 

◆ 遺産分割のやり直し

しかし、遺産分割協議書の作成後に、問題が発生してしまうケースもまれにあります。

例えば、遺産分割後に家族が把握していなかった「多額の財産」が見つかるケースです。
遺産分割協議書の最後には、「後日、本協議書に記載のない遺産があった場合には、相続人〇〇〇(兄)がこれを取得する。」と記載されていたとします。これは、遺産分割協議書を作成した時点では、被相続人の財産は全てを網羅しており、もし財産が見つかっても「少額」であると考えていたためです。このような場合には、弟は遺産分割のやり直しを兄に請求することができます。
ここでは、弟がやり直しを訴えた場合の、法律上の取り扱いをみていきます。

——-民法上の取り扱い——-
民法では、詐欺や恐喝などの場合、遺産分割協議を取り消すことができます。
また、相続人の全員が遺産分割協議のやり直しを希望すれば、遺産分割協議を解除することができます。ここでポイントになるのは、相続人全員の合意が必要だということです。
上記のケースの場合は、やり直しを訴えているのは弟だけで、相続人全員の同意がないため、遺産分割協議を解除することができません。

——-税法上の取り扱い——-
相続税では原則、遺産分割のやり直しは認められていません。
税法上では、遺産分割のやり直しにより取得した財産は、新たな取引(贈与、交換、売買)により取得したものと考え、贈与税や譲渡所得税が課税されます。
上記の例では、想定外の「多額の財産」が発見されたため、弟が遺産分割のやり直しを訴え、兄は発見された財産の一部を弟に渡したとします。そのときは、弟に渡した財産の一部に対して贈与税が課税されます。つまり、新たな税金が発生することになるのです。

 

◆ まとめ

納得して遺産分割をしたつもりでも、その後、思わぬ問題が生じる可能性があります。
では、どのような記載があれば問題とならなかったのでしょうか。

遺産分割協議書に、「本協議書に記載のない遺産については、別途協議する。」のと一文を記載していれば、遺産分割のやり直しは避けられました。

遺産分割のやり直しは、相続税のほかに贈与税・所得税を支払う事態を招きます。
無駄な税金を避けるためにも、専門家に相談して遺産分割協議書は慎重に作成しましょう。

 

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