繰り返す歴史~価値と価格~(Vol.408)


日本最大級の衣料品通販サイト「ZOZOTOWN」を運営する、株式会社ZOZO(前澤友作社長)が昨年末に新たな有料会員サービスを開始しました。年会費3,000円もしくは、月500円を払う会員向けに、ZOZOTOWNでの買い物を常時10%割り引くというものです。

会員になることで送料無料となるAmazonプライムや、音楽配信サービスApple Musicに代表されるサブスクリプション(定額)サービスを打ち出すことで、新たなビジネスモデルを模索しているようにも思えます。

一方で、出店企業からは「安ければ安いほど良いと判断されてしまう」との声が相次ぎました。せっかく新商品を投入しても、安価なものだと認識されブランド価値が下がるというのです。

価値と価格。これまでも大きな論争を巻き起こしてきました。今回の【ビジネスEYE】では、その争いの歴史を振り返ってみましょう。
(2019年1月23日 日本経済新聞朝刊より)

 

(1)松下・ダイエー戦争

松下電器産業(現・Panasonic)とダイエー(現・イオングループ子会社)が価格決定権をめぐって対立していたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。

「価格破壊」をうたったダイエーが定価の20%引きで商品販売を試みたことからこの対立は始まりました。許容範囲である15%を上回る値引きであったことから、松下電器はダイエーに対して商品出荷を停止。対抗措置としてダイエーは、独占禁止法違反に抵触するとして裁判所に告訴しました。

松下電器はレジェンド・松下幸之助氏のもと「定価販売でメーカーと小売りが適正利潤を上げることが社会に繁栄をもたらす」として和解の道を探りましたが、ダイエーは「いくらで売ろうとダイエーの勝手」として、より安価なプライベートブランド製品で対抗し続けたため、対立は激化し、1994年まで30年という長きにわたり続きました。

松下電器の「共存共栄」、ダイエーの「良い品をどんどん安く」というポリシーの対決は、価値と価格を決めるのは誰なのかという恒久的なテーマを掘り下げる契機であったと言えるでしょう。

最初に対立が始まってから55年もの月日が流れましたが、両社の存続においても大きな転機となったのではないでしょうか。

 

(2)価値と価格を決めるのは顧客

「歴史は繰り返す」とは、古代ローマの歴史家・クルティウス=ルフスの言葉です。
文明が発達しても人間の本質は変わらないので、過去に起こったことは後の時代にも繰り返して起こるものです。

50年以上も前から、価値と価格をめぐる争いは続いてきました。繰り返す歴史の中でも、明らかなことが一つあります。
価値と価格を決めるのは、顧客であるということです。急成長し続けてきたZOZOに突き付けられた、相次ぐ出品停止という課題への答えは明白であると言えます。

出店企業からの反発を受けて、サービスの見直しを図り、「出店者の理解を得られるよう対応したい」と発表がありましたが、一方で、価格を論点とする考えは古いとの意見もあります。「値引きはしない」と胸を張れるブランドがどれだけあるのでしょうか。
新商品発売当日からの値引きとなると問題にはなると思いますが、発売直後に売れ筋にならないものはいち早く値引きして現金化する必要があります。ここにきて、価格を守る価値観を持ち出すのは、「新しい価値提供」の潮流に乗り切れていないのかもしれません。

今回の争いは、ZOZOが各企業から無視できない規模に育ってきた証でもあります。過去から学び、デジタルマーケティングのミッションでもある、「なぜこの価格で販売しているのかの商品価値を良好なコミュニケーションで伝える」ことで、本当の意味での「新しい価値提供」が実現できるのではないでしょうか。

アパレルの未来やEコマースの浸透など、ZOZOは大いに語ってきたと思います。今はその説明が足りないと受け止められている感が強いです。本日第3四半期の決算発表が行われるZOZO。新しい価値提供をどんなふうに語るのか、大いに期待したいと思います。
(2019年1月24日 繊研新聞電子版より)

 

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