先の菅義偉首相の2020年10月26日の所信表明演説では、社会のデジタル化、すなわちDX(デジタルトランスフォーメーション)を政権の最重要課題として、デジタル庁の新設も行うことになっています。また、同演説において、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すという「2050年カーボンニュートラル」を掲げています。
こういった菅政権の主たる経済政策の一環として税制面からも企業を後押ししようと、令和3年度の税制改正において、デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制及びカーボンニュートラル投資促進税制といった規定が新たに創設されることになりました。
これらの税制は経済産業関係(産業競争力強化法)の改正を前提としており、改正法の施行は6月から7月頃と見込まれているようです。
※本内容は、令和3年度税制改正大綱及び関連省庁の公表資料に基づいた2021年2月18日時点の情報です。今後の動向により内容が変わる可能性がございますのでご承知おきください。
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制
創設の背景
デジタル技術を活用し、デジタルへの転換を進め、産業構造変化が加速していく中で大胆なビジネスモデルの変革に取り組む企業の後押しとして創設されました。
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制
対象となるものは従来型のソフトウエアだけでなく,繰延資産に計上されるクラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用も含まれることになります。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは、例えば,顧客データを活用した販促情報の提供や無人決済の実現による顧客利便性の向上(小売業)、ロボット等の導入による工場の自動化(製造業)などが想定されておりますが、ソフトウエアと連携して利用する機械装置及び器具備品も同税制の対象となっておりますので、該当する資産は特定の製造業などにとどまらず一定程度はあるかと思われます。
概要
産業競争力強化法の改正を前提に、青色申告書を提出する法人で同法の事業適応計画について認定を受けたものが、同法改正法の施行日から令和5年3月31日までの間に、その事業適応計画に従って実施される産業競争力強化法の事業適応の用に供するためにソフトウエアの新設もしくは増設をし、またはその事業適応を実施するために必要なソフトウエアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)の支出をした場合には、一定の特別償却又は税額控除の適用を受けることができるとしています。
具体的内容
対象事業者
産業競争力強化法の【事業適応計画(仮称)の認定】を受けた青色申告法人
適用要件
産業競争力強化法の改正法の施行日から令和5年3月31日までの間に認定を受けた事業適応計画に従って実施される同法の事業適応(仮称)の用に供するためにソフトウエアの新設若しくは増設をし,又はその事業適応を実施するために必要なソフトウエアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る)を支出すること
対象(※2)対象資産(事業適応設備)
① 事業適応計画に従って実施される事業適応(※1)の用に供するために新設又は増設をするソフトウエア
② ①又は上記の事業適応を実施するために必要なソフトウエアとともに事業適応の用に供する機械装置及び器具備品(開発研究用資産を除く)
対象 ※2 対象繰延資産
事業適応を実施するために必要なソフトウエアの利用に係る費用(繰延資産となるものに限る:クラウド技術を活用したシステムへの移行に係る初期費用)
特別償却
取得等をして国内にある事業の用に供した事業適応設備の取得価額又は上記の繰延資産の額の30%
税額控除
取得等をして国内にある事業の用に供した事業適応設備の取得価額又は上記の繰延資産の額の3%(グループ※3外の事業者とデータ連携する場合には5%)
* 控除税額の上限は,カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の20%
※1:生産性向上又は需要開拓に特に資するものとして主務大臣の確認を受けたものに限る。
※2:対象資産の取得価額及び対象繰延資産の額の合計額のうち本制度の対象となる金額は300億円が限度。
※3:会社法上の親子会社関係にある会社によって構成されるグループ。
事業適応計画の認定
DX投資促進税制の適用の前提として、事業適応計画の認定要件を満たした上で、①デジタル(D)要件と②企業変革(X)要件について主務大臣から確認を受ける必要があります。D要件・X要件とも、全ての要件を満たす必要があるため、クラウド技術の活用は必須となるかと思われます。
また、投資総額が売上高比0.1%以上とされておりますので、自社の売上高に応じて必要となる金額は変わってくることになります(例えば,売上高500億円であれば総投資額5,000万円以上となります)。
①デジタル(D)要件(データ連携・共有、レガシー回避、サイバーセキュリティ)
- ・他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと既存内部データとを合わせて連携すること
- ・クラウド技術を活用すること
- ・情報処理推進機構の認定(DX認定)
②企業変革(X)要件(ビジネスモデルの変革、アウトプット、全社戦略)
- ・商品の製造原価が8.8%以上削減されること等など
- ・生産性向上や売上高の上昇の目標を定めること
- ・投資総額が売上高比0.1%以上であること
カーボンニュートラルに向けた投資促進税制
背景及び趣旨
2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにし、脱炭素社会の実現を目指すという「2050年カーボンニュートラル」の目標に向けて、産業競争力強化法において規定される予定の「中長期環境適応計画【仮】」に記載された①生産プロセスの脱炭素化に寄与する設備又は②脱炭素化を加速する製品を生産する企業の設備投資の促進として創設されました。
概要
産業競争力強化法の改正を前提に「中長期環境適応計画【仮】」の認定を受けた青色申告書を提出する法人が、同計画に従って導入される一定の設備の取得等を行った場合に特別償却50%なたは税額控除5-10%(前述のDX投資促進税制の税額控除との合計で法人税額の20%を限度となります)との選択適用ができるとしています。
具体的内容
対象事業者
産業競争力強化法の中長期環境適応計画(仮称)の認定を受けた青色申告法人
対象期間
産業競争力強化法の改正法の施行日から令和6年3月31日までの間の取得・事業供用
対象資産
①中長期環境適応生産性向上設備
産業競争力強化法の生産性向上設備等のうち,生産工程の効率化による温室効果ガスの削減その他の中長期環境適応(仮称)に用いられるもの。
②中長期環境適応需要開拓製品生産設備
中長期環境適応に用いられる製品であって,温室効果ガスの削減に資する事業活動に特に寄与する製品その他の我が国事業者による新たな需要の開拓に寄与することが見込まれる製品として主務大臣が定める製品の生産に専ら使用される設備。
*対象資産の取得価額の合計額のうち本制度の対象となる金額は500億円が限度
特別償却
取得価額の50%
税額控除
取得価額の5%(温室効果ガスの削減に著しく資するものは10%)
* 控除税額の上限はDX投資促進税制の税額控除制度による控除税額との合計で当期の法人税額の20%
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