概要
昨年末の2021年12月10日に与党は「2022年度与党税制改正大綱」をリリースしました。
岸田内閣における今年度の税制改正のねらいは新型コロナウイルス感染症対策を行いつつ、未来の成長路線を実現させるため、「成長の分配の好循環」「コロナ後の新しい社会の開拓」の2つのコンセプトを掲げています。
前回のANGLEでは「賃上げ税制」及び「グループ通算税制」以外の主な税制改正内容についてご説明しました。今回は大きな改正となった「賃上げ税制」を取り上げてご説明していきたいと思います。
2022年度税制改正において、積極的な賃上げを行った企業等に対しての税制が、人材確保等促進税制から賃上げ促進税制に変わります。「大企業向け」と「中小企業向け」がございますので、それぞれについて確認していきます。
※上記の「大企業」とは期末資本金が1億円超などの企業をいい、「中小企業」とは青色申告法人で主に下記に該当するもの(中小企業者等)をいいます。
①期末資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人
②資本又は出資を有しない法人のうち、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人
※「大企業」のうち、資本金の額等が10億円以上、かつ、常時使用従業員数1,000人以上の法人については後述します「マルチステークホルダー要件」を満たす必要があります
。
賃上げ促進税制(青色申告法人である大企業向け
◆ 適用時期
2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する事業年度となります。
◆ 適用要件(通常要件)
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
適用条件 |
適用年度の新規雇用者給与等支給額・・(A)≧ 前期の(A)×102% |
適用年度の継続雇用者給与等支給額・・(B)≧ 前期の(B)×103% |
控除割合 | 15%控除 | 15%控除 |
※他の者から支払を受ける金額がある場合には当該金額を控除しますが、雇用安定助成金は控除せず含めて計算します。
◆ 適用要件(上乗せ要件)
改正前 | 改正後 1 | 改正後 2 | |
---|---|---|---|
適用条件 |
適用年度の教育訓練費・・(C)≧ 前期の(C)×120% |
適用年度の継続雇用者給与等支給額・・(B)≧ 前期の(B)×104% |
適用年度の教育訓練費の額・・(C)≧ 前期の(C)×120% |
控除割合 | 5%上乗せ加算 | 10%上乗せ加算 | 5%上乗せ加算 |
※上乗せ要件を全て満たす場合には、控除割合が最大30%(基本15%+10%上乗せ+5%上乗せ)となります。
◆ 控除額
(適用年度の雇用者給与等支給額 – 前期の雇用者給与等支給額)×15%(※1、2)
※1 法人税額の20%が限度。
※2 教育訓練費などの上乗せ要件を満たす場合には、控除割合は上記の通り最大30%まで適用があります。
※3 雇用者給与等支給額の対象となる雇用者はパート、アルバイト・日雇い労働者を含み、役員(使用人兼務役員含む)
・役員の特殊関係者を除きます。
※4 継続雇用者給与等支給額の対象となる継続雇用者は2期継続して勤務している雇用者をいいます(雇用保険の一般被保険者であり、高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象ではない者)。
◆ マルチステークホルダー要件
対象となる法人は給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の政令で定める事項等を自社ホームページに公表し、その内容を経済産業大臣へ提出する必要があります。
対象法人 | 資本金の額等が10億円以上、かつ、常時使用従業員数1,000人以上の法人 |
公表期限 | 適用年度終了の日の翌日から起算して45日を経過する日又は公表日から起算して1年を経過する日のいずれか遅い日 |
提出期限 | 適用年度終了の日の翌日から起算して45日を経過する日 |
内容 | 給与等の支給額の引上げの方針、下請事業者その他の取引先との適切な関係の構築の方針その他の政令で定める事項等 |
賃上げ促進税制(青色申告法人である中小企業向け)
◆ 適用時期
2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する事業年度となります
◆ 適用要件(通常要件)→改正による変更なし
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
適用条件 |
適用年度の雇用者給与等支給額・・(A)≧ 前期の(A)×101.5% |
適用年度の雇用者給与等支給額・・(B)≧ 前期の(B)×101.5% |
控除割合 | 15%控除 | 15%控除 |
※他の者から支払を受ける金額がある場合には当該金額を控除しますが、雇用安定助成金は控除せず含めて計算します。
◆ 適用要件(上乗せ要件)
改正前 | 改正後 1 | 改正後 2 | |
---|---|---|---|
適用条件 |
下記「1」と「2」の両方を満たす
1.適用年度の雇用者給与等支給額・・(A) 2.下記のいずれかを満たす |
適用年度の雇用者給与等支給額・・(B)≧ 前期の(B)×102.5% |
適用年度の教育訓練費の額・・(C)≧ 前期の(C)×110% |
控除割合 | 10%上乗せ加算 | 15%上乗せ加算 | 10%上乗せ加算 |
※上乗せ要件を全て満たす場合には、控除割合が最大40%(基本15%+15%上乗せ+10%上乗せ)となります。
◆ 控除額
(適用年度の雇用者給与等支給額 – 前期の雇用者給与等支給額)×15%(※1、2)
※1 法人税額の20%が限度。
※2 教育訓練費などの上乗せ要件を満たす場合には控除割合は上記の通り最大40%まで適用があります。
※3 雇用者給与等支給額の対象となる雇用者はパート、アルバイト・日雇い労働者を含み、役員(使用人兼務役員含む)
・役員の特殊関係者を除きます。
外形標準課税(地方税)の賃上げ促進税制における見直し
法人税において、人材確保等促進税制が賃上げ促進税制に改正されることに伴い、資本金1億円超の普通法人等が適用対象となる外形標準課税(地方税)の賃上げ促進税制においても同様の見直しが行われています。
法人事業税<付加価値割>において、継続雇用者給与等支給額の対前年度増加割合が3%以上である場合に、雇用者給与等支給額の対前年度増加額を付加価値額から控除します。
※<付加価値割>は、企業の「単年度損益」と「収益配分額」の合計を課税標準とし、その合計額に税率を乗じて算定 します。付加価値割の税率は1.26%となっています。
具体的には、「単年度損益」とは繰越欠損金控除前の法人事業税の所得金額をいい、「収益配分額」は報酬給与額、 純支払利子、純支払賃借料からなります。
◆ 適用時期
2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する事業年度となります
◆ 適用要件
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
適用条件 |
適用年度の新規雇用者給与等支給額・・(A)≧ 前期の(A)×102% |
適用年度の継続雇用者給与等支給額・・(A)≧ 前期の(A)×103% |
※他の者から支払を受ける金額がある場合には法人税(国税)と同様に当該金額を控除しますが、雇用安定助成金は控除せず含めて計算します。
◆ 控除額
控除対象雇用者給与等支給額×(報酬給与額-雇用安定控除※)/ 報酬給与額
※付加価値額の算定の基礎となる報酬給与額が収益配分額の70%相当額を超える場合には、付加価値額から一定額(雇用安定控除額)を控除する調整措置が講じられます。これにより雇用や給与水準の高い企業の方が税負担が軽くなる仕組みとなっています。
◆ 留意点
①外形標準課税(地方税)においては課税所得金額ではなく付加価値額から控除されることになるため、要件を満たせば赤字法人でも適用可能となります。
②付加価値額からの控除額を計算する際の控除対象雇用者給与等支給増加額についても、法人税(国税)と同様に算出した金額を用います。
③上記、一定規模以上の大企業向けの「マルチステークホルダー要件」は、外形標準課税(地方税)においても設けられることになります。
④グループ通算制度への移行に伴い、個々の単体法人で判定を行うことになります。