経営メモ「人工知能とベーシックインカム(2)」(Vol.55)


著しい進化を遂げる人工知能(AI)によって、2045年には「10人に1人しか仕事がない」という未来について、前回考えてみました。異論もあるかもしれませんが、この大きな流れは止まることはないと思われます。

ベーシックインカム(BI)とは

AIがホワイトカラーの職業においても普及するようになると、人間の所得が減り、生活が成り立たなくなる恐れがあります。そうした「人間が仕事をしない時代」の処方箋として、ベーシックインカム(BI)が注目されています。

BIとは、「勤労するかどうかにかかわらず、すべての個人に、無条件で毎月一定のカネを直接配る」というものです。BIは世界的にも注目されていて、実際に、2016年6月には、スイスでBI導入の是非を問う国民投票が行われました。「大人には月2,500スイスフラン(約28万円)、子どもには625スイスフラン(約7万円)を支給する」との提案でしたが、結果は反対多数で否決されました。ただ、23.1%は賛成票を投じていました。

否決された理由としては、「財源不足」や「労働意欲の減退」を人々が危惧したためです。さらに、平均所得の低い国から多くの外国人がスイスに流入したり、就業意欲の無い人間がBI目当てに移住したりすると、財源が減ってしまい、それに連動してBIの給付額も少なくなる可能性があるためと伝えられています。

日本におけるBIを試算

駒沢大学の井上智洋准教授は、「BIを仮に1人7万円を給付するとした場合、日本で年間の給付総額は100兆円程度になる」と試算しています。財源は、所得税や消費税を引き上げて賄うため、増税と給付のプラスマイナスで、理論上は差し引きゼロとなるそうです。

BIは、すべての個人に給付するため、現制度である生活保護に比べると選別作業など国のコストがほとんどかからないというメリットがあります。しかし一方では、スイスの例のように警戒論も根強くあります。

いかに共存するか

今後、社会にAIが浸透していっても、クリエイティブな仕事や複雑なコミュニケーション業務は、AIの力を借りつつも人間が担う時代が続くと思われます。また、AIと人間が共生するなかで「自動運転の過失は、保険会社としてどう判断するか」といった、新しい問いに向き合うことになるでしょう。

さらに、日本における少子高齢化の問題は、これから世界のどの先進国も直面する課題です。「AIに仕事を奪われる」という視点ではなく「AIと共存しながら仕事を進める」と前向きに捉えることで、日本が先陣を切って、少子高齢化社会を乗り切るロールモデルとなれるでしょう。

コンピュータやインターネットが普及した当初は、不安が渦巻いていたと思います。今では生活に不可欠の手段となっています。AIも同様に一種の知能革命と捉え、向き合っていく必要があるようです。

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