企業を取り巻く外部環境を考えると、少子高齢化で国内既存事業は頭打ち、海外進出はリスクが高いため、組織の閉そく感を打ち破るためにこそ「新規事業」が必要だというのが大方の考え方ではあります。
多くの企業が新規事業や新サービスに邁進する中、今回はあえてその考え方を否定してみました。
(参考/日経ビジネス 2019年6月24日号)
さてまず一つ目の事例から
伊勢丹・三越ホールディングスの社長交代劇が起きたのは 2017年4月のことでした。
突然の交代劇で社長に就任した杉江俊彦氏は「新規事業ばかりに忙殺されて本業をおろそかにしてしまった」と当時の不振の原因を説明していました。
前社長の下、多角化を推進し、エステ会社や旅行会社、飲食業を買収し、一時は社内の新規プロジェクトは 200近くに上り、本業以外の仕事が社内で増えたようです。売上はその分増えるが利益は確保できない、しかし「本業以外の何かを提案すれば、人事評価が上がる雰囲気があった」との声もあったようです。
新しいことはあくまで成長の手段、それが目的になると経営の弊害になってしまいます。まさに手段と目的の混同ですね。
二つめの事例はメルカリです
2015年に新規事業を専門に手掛ける子会社「ソウゾウ」を設立しました。
近所の人と会って直接取引するための掲示板「アッテ」や、本、CDなどに特化したフリマアプリ「カウル」、即時査定買取サービス「メルカリ NOW」などの新規事業を打ち出してきました。
しかし、2018年にはほとんどのサービスから撤退し、鳴り物入りでスタートした「ソウゾウ」も解散することになりました。
新規事業、やってはいけない3つのパターン
ここからは、組織内部の都合(新規事業についつい手を出してしまう組織の焦り)以外に、新規事業に傾倒してしまう3つのパターンを日経ビジネスの記事をもとに分析してみます。
1. 流行に手を出す
注目の新分野に多くの企業が殺到しますが、失敗も多いようです。
例えばシェアリングサービスやサブスクリプション(定額課金サービス)、フリー(無料)戦略、といったキーワードや流行に手を出すと競争も激しく、また戦略の本質を十分に意義付けることなく進んでしまう傾向があるようです。
記憶に新しいところでは、「AOKI」のスーツのサブスクです。
「モノ」のサブスクは難しいといわれてはいましたが「何かやらなければならない」と手を出しました。
しかし、AOKI は、自社製品との不適合性とシステム構築やバックエンドの手間の煩雑さに気づき、わずか半年で撤退を決めました。
2. シナジー効果の誤解
「風が吹けば桶屋が儲かる」的に過大なシナジー効果を見込んだ企業も、新規事業に失敗した例として位置付けることができるでしょう。美容・ヘルスケア事業、ライフスタイル事業、プラットフォーム事業、そう「RIZAP」です。
何を新しいことをやらなければならない、そのために M&A をやり続ける必要がある、と考える成長路線はまさに「膨張でしかなかったのか?」と言えるのかもしれません。(本業のボディーメイク事業は絶好調なのが救いのようです)
3. 過去を否定しすぎる
コカ・コーラが該当します。
15年連続で競合にシェアを奪われ続けたために、1985年にそれまでの「味」と「ロゴ」の変更を発表しました。
すると消費者から苦情が殺到し、新製品の発売前に旧製品の買い占めが起こる事態がおきました。
発表から 79日後に従来の「味」と「ロゴ」のコカ・コーラの販売継続を発表し、新製品はニュー・コークとしてプラスアルファのラインナップの扱いで発売しましたが、1年も持たずに発売中止になりました。
現状を打開するために新しいことをやろうとするが成果が上がらない、ということはよくあることです。そのために信頼されてきたブランドやサービスの「累積的優位性」を否定すると、歴史的な顧客離れを引き起こしてしまう可能性が高くなるということですね。
以上、新規事業に安易に傾倒してはいけないという論調で書きましたが、経営者のその気持ち、よくわかります。
強く共感しながらも、改めて手段と目的を明確にしながら進める重要性を心に留めました。