経営メモ「のれんと企業文化」(Vol.36)


昨年のM&Aで印象に残ったもの

2015年5月、サントリー食品インターナショナル(以下、「サントリー食品」)が、日本たばこ産業(JT)グループのジャパンビバレッジホールディングスという自販機会社(以下、「対象会社」)を約1,500億円で買収すると発表しました。対象会社の純資産額は2014年12月期で約584億円です。

今回、発行済株式の約70%を買収するという内容ですので、対象会社の純資産の約70%である約411億円分を1,500億円で株式取得を通じて支配するということになります。つまり、その差額の約1,100億円が「のれん(超過収益力)」ということになります。

のれん1,1000億円は高すぎる?

のれん1,100億円を仮に(議論の余地があることは承知ですが)20年償却と考えると、年間約55億円の償却費が発生します。対象会社のここ2期分のPLを見ると、2期平均で年間約30億円の営業利益が計上されます。シンプルに考えると、サントリー食品は年間で約20億円の減益要因を抱えることになります。

背景には、業界No.1への野望も

この買収の会計には「現在1兆2,000億円の売上を2020年までに2兆円に」(今回の対象会社の売上は約1,500億円)という売上目標達成と、自販機保有台数の増加といった思惑があるようです。(コカ・コーラが83万台、サントリー食品は49万台、さらに今回の買収で26万台上乗せできる)

なお、サントリー食品はこの案件以外にも買収を実行しており、自己資本に対するのれんの比率は約79%(4,600億円)にも上っているようです。これは昨年、世間を騒がせた東芝の約63%(6,400億円)を上回る比率です。

のれんと企業文化

「日立に負けるわけにはいかない」という競争心、あるいは、あまりにも強い業績目標達成意欲(いわゆる「チャレンジ」)が、東芝を不正会計に陥れたわけですが、その発端は6,000億円いじょうを投じた米国の原発会社の買収(正確にはこの買収が想定通りに成果を出せなかったこと)でした。

だからと言ってサントリーが東芝と同じ道をたどるとは思いません。企業には「企業文化」というものがあり、結局は、財務や業績の
プレッシャーも良い企業文化がしっかりと跳ね返してくれるはずだからです。

サントリーは1963年にビール事業を開始し、黒字化したのが46年目の2008年(参考:日経ビジネス2009年3月9日号)。46年間の赤字を「健全な赤字」と考えられる粘り強さは他社では真似できないDNAなのではないでしょうか。同族色の強い企業だからこそできたのかもしれませんね。

さて今回、サントリーは巨額のM&Aの成果を出すことができるのでしょうか。

 

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