「おもてなし」は生産性を下げるのか?!(Vol.336)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「おもてなし」は生産性を下げるのか?!
きめ細やかでありながら、正確でスピーディーな「日本式サービス」。小売業や運輸業をはじめとするサービス産業全般は消費者に鍛えられ、高い要求に応える体制を築いています。

しかし、労働生産性の観点ではどうでしょうか。
日本のサービス産業の労働生産性水準は、なんと「米国の5割程度」との調査結果が発表されています。日本の「おもてなし」精神こそが生産性を下げる要因になっているのでは?といった指摘もあります。

今回のビジネスEYEは、「おもてなし」と生産性の関係について考えてみます。。

日本の「おもてなし」は世界トップレベル

海外旅行の際、言葉や文化の違いはもちろん、商習慣や交通機関におけるサービスの違いに驚いた経験を持つ方も多いでしょう。ヨーロッパ都市部の商店の多くは、日曜が定休日で、営業時間にも制約が設けられています。

これは世界有数の観光地であるパリでも同様です。コンビニが普及した日本と比較すると、不便を感じずにはいられません。また、公共交通機関においても、遅延は日常的なことですし、列車が来る直前まで乗車ホームが決まらないことも多々あります。日本の場合は、定刻通りの運行をするために、厳密な管理体制が敷かれています。たとえ遅延した場合でも、乗客への情報提供を徹底するなど、利便性を追求しています。さらに、郵便や宅配便についても、日本では時間指定や再配達など消費者が無料で享受できるサービスが諸外国と比較して豊富にあるようです。

「おもてなし」が収益に反映されていない

日本のサービス産業が、消費者の利便性向上に務める一方、サービス産業に従事する労働者は長時間労働や低賃金に悩まされています。厚生労働省の発表によると、産業別にみた賃金では、男女ともに宿泊業・飲食サービス業が最も低くなっている一方、男性では、金融業・保険業、女性では情報通信業が最も高くなっています。(厚生労働省 「平成27年賃金構造基本統計調査の概況」より)

サービス産業では、付加価値の高いサービスを提供したとしても、サービスに対する経済的な還元性が低く、収益に結び付いていないのでしょう。「おもてなし」のために、時間や費用を投じているにも関わらずです。

日本のサービス産業の労働生産性は「米国の5割程度」

労働生産性とは、従業員1人が一定の時間あたりでどれぐらいのモノやサービスを生み出したのかを示す指標です。

冒頭でも触れましたが、日本の労働生産性格差は、化学・機械業といった製造業では縮小傾向にあるものの、サービス産業では米国の5割程度の状況が続いており、卸売・小売・運輸業などで格差が拡大しているそうです。(2016年12月12日発表「日米産業別労働生産性水準比較」)

サービスの内容を見直す

日本では「働き方改革」として、政府主導で長時間労働を見直す動きを進めています。残業時間を減らすなど長時間労働にメスを入れることで、労働生産性を向上させ、ワークライフバランスや少子化改善が実現できるとしています。

宅配便国内最大手のヤマト運輸は、宅配サービスの抜本的な見直し策として、再配達締め切り時刻の変更や配達時間帯指定枠変更など、一部サービスの縮小を発表しました。ヤマトホールディングスは、2012年3月期から売上は増加し続けているのに対し、経常利益はほぼ横ばい状態です。一向に財務が改善していません。サービス自体を見直すべき局面にあると思われます。

寛容な社会へ

お客様は神様か?

「お客様は神様です」という言葉を普及させたのは、歌手の故 三波 春夫 氏です。

しかし、このフレーズが近年、一部のお客様(クレーマー)が店舗に苦情を言う際に使われている現状を、長女の美夕紀氏が「三波春夫オフィシャルサイト」で嘆いています。春夫 氏は生前、「雑念を払って澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできない。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです」と語っていたそうです。つまり、春夫 氏は「商店や飲食店のお客を神様のように思え」と言っていたのではなかったのです。

日本の消費者は、サービスに求める基準が諸外国と比較して非常に高いようです。人は生活面では消費者であり、同時に、職場ではサービス提供者であります。立場が入れ替わったときにも、お互い寛容さをもって接する方が、社会全体に余裕が生まれるかもしれない、そうした視点も忘れずにいたいものです。(参考:『日経ヴェリタス』2017.6.4「異見達見」)

成熟化した日本に求められるもの

人口減少による供給制約が懸念される日本経済においては、国内総生産(GDP)の約75%を占めるサービス産業の生産性の底上げがGDP拡大には不可欠となります。生産性を改善するためには、「お客様は神様だ」といった概念に縛られ過ぎずに、営業時間・サービス内容等について見直しを進める必要があるでしょう。

サービスの語源はラテン語のservus(奴隷)であり、この言葉から派生して、英語のslave(奴隷)、service(奉仕)という言葉が生まれました。消費者とサービス提供側が「縦」の関係で繋がれた「サービス」という概念を、ヨーロッパにみられる「横」もしくは「斜め」の関係にしていく。そのような視点が、グローバル化・成熟化が進行する日本には必要なのかも知れません。

 

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