松下幸之助氏から学ぶ「働き方改革」(Vol.340)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「夜討ち朝駆け」「夜回り朝回り」
これは新聞記者などが取材のために、早朝や深夜に取材先を訪問することです。この取材方法は日本独自のものらしく、日経ビジネスの編集長が英フィナンシャル・タイムズの人間にこの話をしたところ、「クレイジーだ」と目を丸くされたそうです。欧米にはこうした働き方はないそうです。

今回のビジネスEYEは、松下幸之助氏から学ぶ「働き方改革」を考えてみます。

マスコミ業界の働き方は変化するか?

マスコミ業界で慣例となっていた「夜討ち朝駆け」「夜回り朝回り」。そのため、夜回りが終わって帰宅しシャワーを浴びて一服していると、もう朝周りのための車が迎えに来ている…、といったことも珍しくなかったそうです。しかし今では、上司から「早く帰れ」としつこく言われるようで、現場からは「仕事にならない」といった愚痴が聞こえてくるそうです。

働き方改革に反発する人のなかには、次のような懸念を指摘する人もいます。

・働く時間が減れば成果が減る
・除外されるべき職種もある
・逆に人件費が増える

記者にとって「取材を尽くすこと」と「働く時間を減らす」の線引きは、一筋縄ではいかないようです。日本企業の特徴に、「時間当たりの生産性が世界的に低い」ことが挙げられます。「働き方改革」を契機に生産性向上が求められています。

「働き方改革」は「経営改革」

2017年3月末に、政府は「働き方改革実行計画」を示しました。時間外労働を最大で月100時間未満に制限する「残業規制」がかけられるほか、違反企業には罰則が科されるといった内容になりそうです。(2019年4月の施行を目指し審議中)残業に実質的な上限規制を設ける「働き方改革」は、経営者にとって負担となるでしょう。正社員を無制限に働かせていた旧ビジネスモデルを根本から転換する必要があるからです。

エン・ジャパン「過重労働」実態調査

求人情報サイト大手のエン・ジャパンが実施した「過重労働に関する実態調査(2017年1月ー2月/回答408社)」の結果は次の通りです。

●過去1年間で月80時間を超える残業(過労死ライン)をした社員がいる…はい(40%)
業種別でみると、広告・出版・マスコミ関連(64%)、IT・情報処理・インターネット関連(48%)、製造業(45%)。また、企業規模と残業時間が比例する傾向も見受けられました。

最近では、電通の過労自殺事件、ヤマト運輸の過重労働問題などが大々的に報道されたことで、長時間労働是正について、かつてないほどに世論が高まっています。皮肉にもそれを報じる側のマスコミ業界がワースト。早急に根本的な改革をすべきでしょう。

松下幸之助氏の改革の指針

「50%の改革の方が5%や10%の改善より容易なことがある」

パナソニック創業者の松下幸之助氏は、かつてそのように話していたそうです。大きな改革は「現状否定を考える」のに対し、小さな改善は「現状肯定」を前提とするためです。今企業が問われている「働き方改革」は、松下氏がいう「50%の改革」にあたるでしょう。「50%の改革」のためには、事業設計の見直しやイノベーションが必要となると思われます。

・最新技術の導入(IoT、ビッグデータ)
・事業の改革(アナログからデジタルへ)
・ビジネスモデルの見直し(課金方法の変更など)

抜本改革を始める好機と捉え、「小手先の対応ではもったいない」というくらいに発想を変えてみるべき時なのかもしれません。(参考:日経ビジネス2017.6.5『編集長の視点』)

経営指標が利益へシフト

かつての日本企業は、「売上高」や「シェア」を非常に重視していました。しかし、外部環境の変化(海外機関投資家の増加等)によりその基準が大きく変わりつつあります。現在では、「利益率」や「ROE(自己資本利益率)」などの経営指標にシフトしています。ROEを高めるためには、事業に磨きをかけ、付加価値を高める必要があります。つまり、より稼げる会社へと成長することが求められます。

業務量が多いからといって、パートやアルバイトを増員して乗り切ろうとする労働投入型の発想ではROEを高めることはできません。また、コストカットも行き過ぎると、人も組織も疲弊してしまい、付加価値の高い成果を生み出すことができなくなるでしょう。業務分担やフローの見直し、会社に長くいることを推奨する風土の改善、仕事の取捨選択などによる、労働の「質」を高める工夫が必要となっています。

「常識は大切。しかし、新しいものを生み出すには、常識から自分を開放することもまた重要である」松下幸之助氏の言葉です。「50%の改革」もやり方によっては難しくないと松下氏は考えたように、新しい技術や仕組みを取り入れた、新しい発想の「働き方改革」が望まれています。

 

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