さりげなく人を動かす話し方(1)- まずは相手への理解から(Vol.342)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

現代において「話すこと」「書くこと」「表現すること」は、過去とは比べものにならないほど価値があることとなりました。

これまでに30冊、累計120万部の著書を出されたベストセラー作家・講演家の山﨑拓巳氏は、著書『スゴイ!話し方』(かんき出版)のなかで、「話し方の技術」を習得することで、人生の大きな武器を手に入れることができると述べています。

本日のビジネスEYEでは、「さりげなく人を動かす話し方(1)」を考えます。

山﨑氏が「話し方の極意」を伝える側になるまで

約30年にわたる講演活動などで、のべ200万人を超える人たちと話してきた山﨑氏。20代前半までは決して「話の達人」でも「コミュニケーション上手」でもなく、逆に、相手を言葉でやり込めて論破してしまう、いわゆる「イタイ人」だったそうです。そんな相手を論破することに長けていた山﨑氏は、ある先輩からの愛ある助言を受け、「話し方」について学ぶようになったそうです。そして、「話し方」を変えたことで、周りの人たちの反応が大きく変わり、すべてが好転し始めたといいます。

山﨑氏によると、コミュニケーション能力の高い人は、「さりげない技術」をつかって周囲との意思疎通を円滑にしているそうです。どういった「言葉」や「表情」などが効果的に相手に響いているかについて、メソッドにしてまとめています。

「どっちが正しい?」よりも「仲間づくり」

かつて、正論を振りかざし、相手を言い負かしては得意になる傾向のあった山﨑氏ですが、議論でやりこめられた相手は、怒りだしたり、敵対してしまったりしたそうです。相手を論破する会話方法では、相手と心を通わせることはできないと感じたそうです。

「一緒に仕事をしたい」
「面白い人生を共有したい」

このように感じる仲間を増やしていくために、山﨑氏はどうしたのでしょうか?

山﨑氏は、まず、相手の考え方を認めることが大事であり、相手を認めた上で「君の話に納得しました。僕の話も聞いてくれる?」と「自分の思う正しい話」を切り出すように、会話の流れを見直したそうです。否定を最初にもってくるのではなく、肯定から会話を始めることがポイントです。肯定から会話を始めるようにしたことで、「論破好きな自分」に別れを告げることができたそうです。

相手の価値観を知って呼びかけ、その人の欲求と行動を結びつける

「仕事で成果をあげる」「試験に合格する」など、人生には懸命に取組む時期が何度も訪れます。そうした場面で、相手に刺激的な言葉をかけて奮闘させるのは簡単です。しかし、カンフル剤は長い目で見るとマイナスになってしまうことが多いと山﨑氏はいいます。本当に相手のことを思うなら、もっと長いスパンで見て、その人の人生をサポートしながら、その人の進みたい方向の中で大切なことを伝えてあげた方がいいと山﨑氏は述べています。そのためには、「やる気にさせる」というよりも、「本気になってもらう」ことが重要だそうです。

かつて、アル・ゴア米副大統領のスピーチライターを務めていた、作家・ジャーナリストのダニエル・ピンク氏が唱えたモチベーションの3段階をご存じでしょうか?

モチベーション1.0・・・生存(=サバイバル)するために行動する (生理的欲求)
モチベーション2.0・・・やればやるだけ報酬やメリットが増えるから行動する (社会的欲求・外的動機づけ)
モチベーション3.0・・・自分が好きなことだから行動する (自己実現欲求・内的動機づけ)

「モチベーション2.0」は「アメとムチ」に例えられます。仕事が「作業」のレベルだった時代には、この「アメ」と「ムチ」が有効手段でしたが、21世紀に入り、仕事の中身が「クリエイティブ」になると機能しなくなりました。今、求められているのが「モチベーション3.0」を刺激する「動機づけ」です。「好きな仕事だから」「この分野で成功したいから」といった内的な動機づけとなります。人生の目的と結びつけている強い動機であるからこそ、大きな能力が引き出されるのでしょう。

相手に届くのは「手垢のついていない言葉」

世の中には、人生の支えとなる名言や格言がたくさん存在します。相手にアドバイスをする時には、言葉の選択に気を付けなければなりません。言い古された内容を伝えるときは特に、「そんなのもう知っているよ」と思われてしまい、相手の心には響きません。いかに、まだ手垢がついていない表現をつかって相手の心に響かせるかが勝負です。

下記の2つの文のうち、どちらが響くでしょうか?
・「前日に明日の準備をしておきなさい」
・「今日の夜から明日を始めておきなさい」

こうした「言葉のストック」は表現者にとってとても重要だと山﨑氏は述べています。コピーライターが相手に伝わる「コピー」をじっくり考えるように、研ぎ澄まされた言葉は相手の心に刺さる言葉となるに違いありません。「新しく知った」「手垢のついていない」言葉は、きっとあなたの世界を広げるでしょう。(参考:『スゴイ!話し方』山﨑拓巳著/かんき出版)

ヤフーの取組み事例

『ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法』 (本間 浩輔著/ダイヤモンド社)では、ヤフーで実施している人事の仕組みである「1on1ミーティング」についての導入経緯や実施状況を紹介しています。

ヤフーは「人材開発企業」になるというスローガンを掲げており、「部下を成長させるコミュニケーション技法」としてこの手法を2012年に導入しました。バブル崩壊後、リストラに代表されるような経営手法が定着し日本的経営慣行が崩れつつあるなかで、「社員の情熱と才能を解き放つ」という人材育成の基本方針のもと、上司と部下が1週間に1回、30分程度かけて「1on1ミーティング」を実施しているそうです。

現在は、SNSの発達により仲の良い関係の人とは密接に繋がる傾向が強くなっていますが、仕事では年齢や考え方の違いを超えて、取組まなければならない局面もあります。昭和的な「じゃぁ飲みに行こう!」といったノミニケーションも、長時間労働の削減が叫ばれ、また、社員が多様化している現在では難しくなっています。

ヤフーでは、「部下に十分話してもらう」という「1on1ミーティング」の実施により、部下のキャリアや価値観について、上司が十分に理解することができるようになりました。山﨑氏の著書にある「相手の価値観を知って呼びかけ、その人の欲求と行動を結びつける」に通じる取組みとなります。

相手の心に届く「話し方」をするためには、まず相手を理解するところから始め、信頼関係を築く必要があるようです。どのような話し方やコミュニケーションが相手に共感を得やすのかを学ぶことは、仕事でもそれ以外の活動においても、新しい価値を手に入れ、あなたの人生をバージョンアップさせるものとなるでしょう。

次号は、引き続き「さりげなく人を動かく話し方(2)」をご紹介いたします。

 

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