中村 亨の【ビジネスEYE】です。
会話するだけで、家電の操作や天気・交通情報などを教えてくれる。そんな近未来的な生活を現実のものとした人工知能(AI)を搭載したAIスピーカー。日本国内でも先日ついに販売されました。
「Clova WAVE」 (LINE) (税込1万4,000円)10月5日発売
「Google Home」(google)(税抜1万4,000円)10月6日発売
AIの普及に伴い、私達の生活は一変することになるでしょう。これはビジネスにも通じます。あらゆる産業のビジネスモデルが根底から覆される可能性があります。
本日のビジネスEYEでは、「AIのビジネスへの活用」をお伝えいたします。
AI活用戦略
現在のAI産業を主導しているのは、米国のIT企業です。日本企業は完全に出遅れ状態です。グーグルやフェイスブックは、AIを主軸とした収益に直結したビジネスモデルを作り上げています。純粋なAI技術だけでは、日本企業に勝ち目はないかもしれません。ただ、それらのAI技術に各産業の強みを組合わせることができれば、勝機はあるのではないでしょうか。
「モノ」売りから「サービス」売りへシフト
AIの普及により、全産業で大きな構造的変化があるでしょう。それは、これまで以上に「モノ」売りから「サービス・ソリューション」提供へと比重が大きくシフトしていくことです。例えば、セキュリティー分野。AI技術の一種である画像認識の需要の拡大により、カメラ本体としては差別化が難しくなる一方、ネットワークカメラとしての利用が増え、撮影した情報を解析して、防犯サービスや販売促進といったアクションに結び付けるソリューション市場は急拡大するでしょう。
また、製造業においても、自動車という「モノ」を作って売る産業構造から、人々に安全に便利なモビリティ(移動手段)サービスを提供する「サービス・ソリューション」型産業へと転換が起きる可能性は高いでしょう。快適に安全に「運転サポート技術」、「完全自動運転」などのサービス展開が予想されます。
きめ細かなサービス
もう一つの変化は「個人特性に合わせたきめ細かなサービス」への転換です。
ヘルスケア・介護分野では、AI搭載のホームドクターが実現するでしょう。へき地医療の解消が計れるほか、先制医療や予防医療を含めた個々人への包括的なサービス提供が期待されます。
物流分野においては、Eコマースの購買データから在庫の適正管理・配置を行い、配達時間の短縮など、徹底した効率化を目指すことになるでしょう。
埋もれたデータを宝の山に
AIをビジネスで活用するには、まずはデータがなければ始まりません。企業には、顧客データ、生産データ、購買データなど多様なデータが蓄積されているはずです。これらの大容量データを解析しパターンを抽出して、ビジネスに役立てるという発想を持つということが、まずは第一歩です。
その上で、データを使うことで何を目指しているのか、何をしたいのか、目標と目的をはっきり設定した上で、データの棚卸から始めてみましょう。ただ、データを保有しているだけでは、「宝の持ち腐れ」です。
日立 ~まずは社員で実証実験~
日立では16年6月から営業部門の社員600人に対して、AIを活用した受注率を高める実証実験を行っています。下記のような仕事のアドバイスをAIが社員に行うというものです。
【AIの提案例】「上司に会いにいくのは午前中の方がよい」「会話は5分以下で済ませて」
実証実験を開始する前に、日立は社員に名札型のウェアラブルセンサーをつけてもらい、人の動きや声を記録したそうです。そこから得たデータと、社員アンケート(幸せについて)の結果から、「動きに多様性がある(=活性度が高い)」と、「幸福度が高い」に相関性があること、さらに、活性度の高さに「営業の受注率」が比例することも判明したそうです。「活性度の高い職場は、平均よりも3割ぐらい生産性が高い。社内実証で1割でも生産性が上がれば大きな成果だろう。」と、日立の技術者は期待を寄せています。社員の働き方について、AIの解析が現場に変化をもたらそうとしています。
アスクル ~ヒトの判断に頼らない~
オフィス用品の通信販売最大手のアスクルは、AIを使ってインターネット通販の商品配送を改革しています。AIが、どの宅配担当者がどの荷物をどの順番で配送するのを効率的に考え、配送ルートの案を作成します。さらに、天候や渋滞の情報、ドライバーの熟練度などから、荷物を届けられる時間を予想するそうです。予想時間と実際に届けた時間に差があれば、その理由を示すので、担当者が改善の参考にできるといいます。
こうした取り組みにより、同社が運営する日用品ショッピングサイト「LOHACO」の配送で、顧客が不在で商品を受け取ってもらえない「不在率」は、6%となったそうです。ちなみに政府試算では平均23.5%。LOHACOの本格実施の際には3%を目指すそうです。アスクルの取り組みは、配達員がどんな行動をすべきかという提案までAIが考えています。何をするか最終的な意志決定をするのは人間に委ねられますが、その選択肢をAIが提示できるかどうかが大きな違いとなります。(参考:週刊ダイヤモンド 2016年8月27日号)
トヨタリサーチインスティチュート
2016年1月、トヨタはシリコンバレーに人工知能研究所「トヨタリサーチインスティチュート」を設立しました。
CEOにAIとロボティックス研究のスーパースターであるギル・プラット氏を迎え入れ、今後想定される様々な可能性に対して準備をしています。プラット氏は、2010年~2015年、米国国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のプログラム・マネージャーとして、ロボットなどの複数のプログラムを指揮。「人と協調するロボット技術」の世界を切り拓き、ロボット・人工知能研究において世界の研究者から注目されている存在です。そうした最先端の研究者がトヨタにくることで、日本企業のプレゼンス向上になると期待されます。
急速に変化する環境のなかで、AIを活用するセンスが日本企業に問われていくでしょう。構造的・持続的に「稼ぐことができるビジネスモデルをいかに構築できるか」が短期的に重要になります。AIの普及は、新しく生まれるビジネスの牽引力にもなり、また、既存ビジネスの効率化にもなると捉え、活用を真剣に考えたいものです。
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