2017.10.26

ビジネスEYE Vol.346


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

三越伊勢丹HD「クイーンズ伊勢丹」をファンドへ売却

積極的な出店攻勢が徒となり、2016年3月期から債務超過に陥っていた三越伊勢丹HD傘下の高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」。
立て直しを図るも結果が伴わず、自主再建を断念しファンドへの売却を決定しました。
同社は、今年3月に「ミスター百貨店」とまで称された大西洋前社長の辞任騒動もあり、内外ともに混乱状態にあるようです。
本日のビジネスEYEでは、「三越伊勢丹の混乱(1)」をお伝えいたします。

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■経営統合と武藤氏の急逝
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三越と伊勢丹の経営統合は、2007年、当時伊勢丹の社長であった武藤信一元氏が主導したものでした。武藤氏は、海外高級ブランドのトップとも幅広く交流のある人物でした。しかしホールディングの誕生から2年後、武藤氏は、統合作業のさなか亡くなります。流行に敏感な若年層に支持される「先端ファッションの伊勢丹」と、創業300年を超え中高年以上の富裕層を顧客にもつ「伝統の三越」とでは、社風の違いが大きく、なかなか溝が埋まらなかったと言われています。
こうした難しい統合業務をまとめ上げるに適した人物として、闘病中の身でありながら武藤氏が後継者に指名したのが、伊勢丹メンズ館を成功に導いた大西洋氏でした。大西氏は、社長になってから百貨店という業態をとにかく変えなければいけないという思いから、異業種の企業を買収し、婚礼や外食の企業を立ち上げるなど事業の多角化に乗り出したのでした。

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■大西氏 退任の理由
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本年3月、大西氏は三越伊勢丹HD社長を電撃退任する事態となります。退任理由が定かでないうえ、後任も未定という異例の発表に、様々な憶測を呼ぶことになりました。大西氏は退任理由について、日経ビジネスの単独インタビュー(2017年7月10日)で、次のように振り返っています。
 1. 中間決算発表時の不用意な発言
   16年11月の中間決算発表時に実店舗名を挙げ、「店舗の構造改革が必要だ」と発言。
   社内調整の取れていない発言に、幹部をはじめ、取引先にも混乱が広がる。

 2. 2018年度の営業目標の未達
   自らが掲げた2018年度の営業利益500億円の目標が未達となった責任。

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■幹部・中間管理職との対話が不十分
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大西氏は社長として、三越伊勢丹HDの利益の約6~7割を伊勢丹新宿店に依存しているという利益構造を改革することが自らの課題だとして、地方店舗の構造改造を進めていました。そのためには、異業種企業の買収や店舗・仕入れ改革を行い、新たなビジネスモデルを開発しようとしていましたが、社内でコンセンサスを得るには相当なエネルギーが必要であり、同時に焦りもあったようです。

後に、杉江俊彦社長は就任会見の際に、大西前社長の退任理由を、「社内での対話、コミュニケーションが不足していた」と言及しました。
大西氏は、現場で働く販売員との会話から問題点をみつけることを重視していましたが、しかしその分、中間管理層との対話に時間をかけられず、情報共有や連携が思うようにとれなくなりました。その結果、大西氏の行動が、スタンドプレーと目されるようになり、「裸の王様」とも揶揄されてしまったそうです。

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■インバウンドの失速が大ダメージとなる
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2014年頃から、訪日外国人の買物(インバウンド)が急増して、商業施設は息を吹き返しました。特に、中国人観光客による高額ブランド品のまとめ買いは「爆買い」と呼ばれて話題となり、メディアでも盛んに取り上げられたことは記憶に新しいでしょう。

三越伊勢丹HDは、立地の良さもあり、銀座に位置する三越銀座店の大改装を行って空港型免税店を開設し、爆買いのさらなる誘致を目論みました。しかし、その戦略は皮肉なことに裏目に出てしまいまいした。免税店のオープン直後から、なんと爆買いが失速してしまったのです。買いが一巡したことで、「モノ」から「コト(体験)」と、消費者の関心が移ったようです。これにより、旗艦3店舗は苦戦に転じ、中でも銀座店の落ち込みは激しくなりました。

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■業績の低迷
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三越伊勢丹HDの17年3月期決算は、連結売上高1兆2534億円と前期比マイナス2.6%の微減。売上総利益は3,656億円ですが、販売管理費が3,416億円。売上総利益の約93%が人件費や委託管理費、地代家賃費などに充てられています。自己資本比率は43.4%と低くはありませんが、ROE(自己資本利益率)が2.65%と資本に対して利益を生み出す力が大変弱いのが問題です。

2012年6月から2013年3月にかけて、新宿本店は総額90億円を投じ、フロア構成の変更や、自主編集売り場の拡大など大幅なリニューアルを行いましたが、インバウンド需要の低迷などタイミングが悪く、新宿本店の売上は伸びず、かえって状況を悪化させる要因となってしまいました。
近年、三越伊勢丹は、営業時間短縮や新年の初売りを3日にするなど、働き方に配慮しています。東洋経済社が発表した「女性が働きやすい会社」では、15年・16年と2年連続で1位に輝きました。働き方改革が叫ばれる今、「社員が元気でないと、良いサービスはできない」という考え方には、多くの共感の声が寄せられていました。

「クイーンズ伊勢丹」の売却、旗艦3店舗の改革など、多く課題が押し寄せる三越伊勢丹HD。杉江新体制が始まったばかりとはいえ、明確な成長戦略が描けたとは言い切れない状況。先行きは予断を許さないでしょう。

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