2017.11.02

ビジネスEYE Vol.347


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「40・50代の早期退職を促進」

三越伊勢丹HDは、業績低迷を受け、合併後初となる早期退職制度の見直しに踏み切りました。管理職を中心に早期退職を促すため、退職金を最大で倍増させる方針を固めました。新社長の杉江俊彦氏は、どのような将来像を描いているのでしょうか?

本日のビジネスEYEでは、「三越伊勢丹の混乱(2)」をお伝えいたします。

———————————————————————————
■辞任劇の背景に営業系と管理系の対立
———————————————————————————
大小の差はあれど、どの企業にも「営業」と「管理」の対立構造はあります。伊勢丹内部にも、代々営業系と管理系という大きく2つの勢力があったため、前社長の突発的な辞任劇の裏には、この対立構造があったと噂も耳にします。ちなみに、前社長は営業系、新社長の杉江氏は管理系の出身です。

「武藤さんさえ生きていれば、こんなことにはならかったのに…」。
前社長の辞任劇について、関係者が口を揃えてこう言うそうです。武藤さんとは、元三越伊勢丹HD会長兼CEOである故 武藤信一氏のことです。三越と伊勢丹との統合を成立に導いた立役者である武藤氏ですが、統合の道半ばで他界されました。営業系・管理系のバランスをうまくとって統合業務を推進した武藤氏に対し、大西氏にはそれが出来ず、結果として失脚の要因を作ることになりました。

———————————————————————————
■株価の低迷
———————————————————————————
杉江社長は「ファッションの伊勢丹」には珍しく、食品部門から抜擢された経歴を持ちます。その経歴に「伊勢丹と三越という壁に影響されない」と評価する声がある一方、前社長のもとで杉江氏は経営戦略本部長であったことからも、一定の責任はあるとの指摘もあります。
消費不振と顧客離れに苦しむのはどの百貨店も同じですが、直近の業績だけを見ると三越伊勢丹だけが「1人負け」の様相となっています。
三越伊勢丹HDの株価は、2年前は1,900円台をつけていましたが、今は1,200円台にまで下がり、業界2位のJ.フロントリテイリングに追い抜かれている状態です。

———————————————————————————
■業界他社との比較
———————————————————————————
百貨店業界は、かつては年間9兆円の売上規模でしたが、現在では6兆円と縮小しています。そうした変化に伴い再編が進み、現在、三越伊勢丹、J.フロントリテイリング(大丸、松坂屋)高島屋の3つに集約されています。

J.フロントリテイリング(大丸、松坂屋)は、発足から10年が経過しましたが、パルコ事業の買収などM&Aや外部との事業提携にも取り組み、事業の幅の拡大を図っています。17年4月には、銀座6丁目に「GINZA SIX」を森ビルなどとオープンさせたほか、11月4日開業の「上野フロンティアタワー」は、パルコや映画館、そしてオフィスを一体的に備える複合商業施設となっています。「脱・百貨店依存」を鮮明にすることで効率経営の徹底を図っています。

また、高島屋もアジアを含め、ショッピングセンターなどの不動産事業に力を入れています。高島屋の子会社で、商業デベロッパーである東神開発は「玉川高島屋S・C」をオープンさせ、価値創造に寄与していています。そうしたノウハウと活かして2018 年秋には、「日本橋髙島屋 S.C.」を日本橋に誕生させる予定です。

———————————————————————————
■三越伊勢丹の今後の展望
———————————————————————————
杉江社長は、事業の多角化を進める姿勢も強調し、グループ全体の事業構成を見直す方針を示しています。同業他社と比較すると、三越伊勢丹は百貨店に依存した経営であり、多角化を含め、利益率の向上を含めた経営構造の改革が急がれるためです。ただし、同業他社が取り組んでいるSCを運営する商業デベロッパーの手法は、どれも似たようなテナントが揃い、飽和状態にあるとも言えます。こうした手法を三越伊勢丹が取り入れることで、利益構造を改善はできますが、新しい魅力を発信できるかというと、そうとは言い切れないでしょう。

杉江社長は、前社長が百貨店事業の立て直しの目玉としてきた「仕入れ構造改革」を見直し、在庫リスクを見極め慎重に対応するとの方針を打ち出しています。リスクを取る「攻め」から、リスクを見極める「守り」へとも受け取れる方針の転換ですが、杉江社長のもと、前社長の問題点の洗い出しがようやく始まっただけで、今後の成長戦略がはっきりと描き切れているとは言い切れません。

———————————————————————————
■ネット企業が実店舗を持つ時代に
———————————————————————————
経済産業省が今年4月に発表した、「電子商取引に関する市場調査」によると、平成28年のBtoC-EC市場規模は、15兆1,358億円(前年比9.9%増)であり、また、EC化率は、5.43%(対前年比 0.68 ポイント増)と商取引の電子化が進展しています。

このように、今や隆盛を誇るインターネット通販大手のアマゾンジャパンですが、先月、10日間限定で、東京・銀座に「アマゾンバー」をオープンさせました。店舗では、アマゾンで取り扱うワインや日本酒5,000本をグラスで提供しました。同じく、ネット通販の選手会やオイシックスドット大地も実店舗出店を拡大しており、ネット専業企業がリアルの世界で消費者との接点を持とうとする動きが広がっています。
店舗を持つということで、人と接する安心感を提供するという強みがありますが、そうした強みをネット企業は取り込もうとしています。
百貨店が台頭するネット企業と対抗するためには、店舗を持つ強みを最大限に生かし、店舗空間や販売員をいった資源を再認識して強化することは言うまでもありません。
(参考:NIKKEIビジネス2017年7月10日)

消費者の購買行動が劇的に変化している今、かつて百貨店の強みであった多品種少量の品ぞろえだけでは、集客力を保つことが難しくなっています。杉江社長には、社内の混乱を収束させ、改革を実行できるのか、また、長年培ってきた商売のやり方を変え、収益の柱を育てていけるのか、経営手腕が問われることになります。

中村亨のビジネスEYE メールマガジン
日本クレアス税理士法人|コーポレート・アドバイザーズでは、会計の専門家の視点から、経営者の次の智慧となるような『ヒント』をご提供しています。