「必要のない残業」の減らし方(Vol.349)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

「労働時間削減、結局現場にムチャぶりですか?」
「ノー残業、楽勝!予算達成しなくていいならね。」

グループウェアの開発販売を手掛けるサイボウズの広告が話題を呼んでいます。会社員たちの本音をウィットに富んだコピーで表現し、働き方改革浸透の難しさ、労使間の思惑の違いを言い表しています。

今回は、「必要のない残業」の減らし方についてお伝えします。

残業時間を抑える具体的な取組み

働き方改革の機運が高まる一方で、「思うように残業が減らない」というのが実態でしょう。上司や同僚が残業していると、なんとなく帰りにくい雰囲気がオフィスには漂います。「遅くまで仕事をしている方が評価される」「職域が明確でない」などが主因でしょう。

公益財団法人 日本生産性本部が実施した‟新入社員の意識調査”の結果は次の通りです
【働く目的】          「楽しい生活をしたい」   (42.6%/過去最高)
【若いうちは進んで苦労すべきか】「好んで苦労することはない」(29.3%)

また、就労意識の項目では、「上司・同僚が残業していても自分の仕事が終わったら帰る」との回答が昨年度38.8%から48.7%に上昇していました。ワークライフバランスに対する意識の高まりが確認できる結果となりましたが、裏を返せば、まだ2人に1人は「特段仕事がなくても帰らない」という現実を告げています。こうした人に、気兼ねなく帰宅してもらうだけでも生産性はかなり上がります。無意味な残業が減る上、仕事量を落とさずに労働時間を削減できます。

「阻害要因人材」への対応

労働環境の急激な変化に伴い、職場には“問題人材”が存在することが多くなっています。問題人材とは、一つ目が「かまって欲しい上司」、二つ目が「クラッシャー上司」です。こうした人材が、無意味な残業を発生さ、若手が帰れない状況をつくりだしているというのです。

【かまって欲しい上司の特徴】

・何かと若手を集めてミーティングを行う(自分が“ボス”であることを誇示するだけ)
・「報告、連絡、相談」が不足すると不機嫌になる(上司としての存在感を確認できない)

こうした特徴をもつ上司は、自分の考えや自慢話を披露して自尊心を満足させたいだけで、部下を理解しよう、育てようといった視点が乏しいようです。

【クラッシャー上司の特徴】

・「上役」から褒められるためなら、部下を犠牲にする(視線が上役を向いている)
・部下に過剰な頑張りを要求する(終業間際や休日にも仕事を押し付ける)
・部下への説教でストレス発散(権威をふりかざし必要以上に部下のミスを責めたてる)

「クラッシャー上司」(PHP新書)の著者、松崎一葉・筑波大学大学院教授によると、クラッシャー上司には成績を上げることに秀でている人が多いため、上役からは重宝がられ、ムダな残業の発生源だと分かっていても、大きく問題視されることは少ないそうです。また、多少注意しても、精神医学でいう自己愛性パーソナリティ障害に近く、本人に罪の意識がないため、暴力的なマネジメント手法が見直されることはないそうです。

企業はこうした問題人材に対し、やんわりと隔離したり、新しい部署をつくり異動させたりすることが効果的です。異動させるのが難しい場合には、問題社員の席をパーテーションや観葉植物で区切るだけでも一定の効果が望めるそうです。

短時間で要領よく仕事をし、成果も申し分ない「エース社員」と対極に位置する「問題人材」。自分の周りに観葉植物を置かれたら、自らの言動を振り返った方がいいでしょう。

定時以降はオフィスからラウンジに移動

「帰りにくい雰囲気」を打ち消そうと、オフィスの使い方を見直した経営者がいます。大手厨房機器メーカー・タニコーの矢口社長は、次のような残業削減策を実施しました。

 ・オフィスのワンフロアを全社員が使えるラウンジに改装する
 ・定時以降、同僚との打ち合わせなどがしたい社員は、ラウンジを使うルールにする

このように打つ合わせ場所を移動するだけでも、オフィスに漂う「帰りにくい雰囲気」を強制的に断つことができるそうです。大阪営業所は8階建てで、ラウンジは2階にあるそうです。定時の午後6時になると、3階から上の社員は必然的にラウンジに向かい、ある者は帰途につきます。定時間際の一時的な「混乱」が、帰りにくい雰囲気を消滅させる絶好のきっかけになるそうです。

給与制度で帰りにくい雰囲気を壊す

特殊な給与体系にしたことで、「意味もなく会社にいるメリット」をゼロどころかマイナスにした会社もあります。2007年創立のITベンチャー、ダイヤモンドメディアです。不動産会社向けのウェブページを受託する事業が柱の同社は、「変形ベーシックインカム制」ともいえる給与制度を導入しています。

給与はベーシックインカム部分と変動部分に別れ、前者は完全に固定され、どんなに残業しても1円たりとも増えない仕組みとなっています。半期に1度のペースで変わる変動部分は、転職エージェント会社に依頼して入手する「仮にその社員が今、転職した際の市場価値」に、業績係数をかけ合わせて算出するそうです。

変動部分についての査定を上司や経営陣が行ってしまうと、社員の側に「成果がでなくても長時間残業していれば、熱意が認められ査定が上がるかもしれない」との期待が生まれかねないためとしています。

同社は「第3回ホワイト企業大賞(2017年度)」にも輝きました。受賞時のインタビューによると、同社社長の武井氏はホワイト的経営にこだわり、「自分の給料は自分で決める」、「肩書きは自分で決める」、「財務情報は全部オープン」、「働く時間、場所、休みは自分で決める」など、既存の経営手法の枠を超えた斬新かつ革新的な方法に長年チャレンジし、究極の経営を実施しているとのことです。

 

全ての企業が上記のようなやり方を取り入れるのは難しいとしても、著しく低い日本企業の生産性と、長時間労働を美徳とする慣習は課題です。一度、「ブラック企業」や「グレー企業」とレッテ張りがされてしまうと、評判の下落、人材獲得が困難となる、事業が発展しないなどの恐れがあります。「必要のない残業」の減らし方は、覚えておいて損はないでしょう。(参考:日経ビジネス2017年7月24日号)

「1989年に異常な40年が終わった。高度成長、規格大量生産、成果=時間のすべてが終った。Change or Die。変わらなければ負けるのではなく死ぬしかない。変革とは既得権を奪うことであり、既得権を奪う作業をしている」
カルビーの松本晃会長兼CEOの言葉です。

日本式の働き方を変革するには、相当の覚悟をもって臨む必要があるようです。グローバル化、少子高齢化、IT化、AIの普及など、様々な要因を咀嚼しながら、価値向上へのたゆまぬ努力が、今日の日本企業に求められています。

 

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