2018.03.29

ビジネスEYE Vol.367


 

中村 亨の【ビジネスEYE】です。

企業業績が過去最高の勢いであるにも関わらず、労働者の手取りは減り続けているようです。
残念ながら、日本の労働者は「一人負け」を喫していると言えるようです。なぜ、賃金は上昇しないのでしょうか?

本日のビジネスEYEでは「賃上げはなぜ難しいのか(2)」をお届けします。

■下がり続ける可処分所得

社会の変化や人口構成比の変化に伴い、可処分所得が減ってきているとの指摘があります。総務省統計局の家計調査(二人以上の世帯のうち勤労者世帯)によると、可処分所得は、2000年には47万4,411円でしたが、2017年には43万4,415円と、約4万円減少しています。

また、実収入については、アベノミクス効果もあり2014年からは継続的に上昇しているものの、2000年には56万2,754円でしたが、2017年には53万3,820円と、約3万円減少しています。実収入のピークは、1997年の59万4,038円でしたので、まだ追いついていません。

さらに見逃せない点として、税や社会保険料等の非消費支出の増加も挙げられます。実収入に対する非消費支出の割合は、2000年は15.6%でしたが2017年では18.6%までに上昇しており、約1万円の負担増となっています。とはいえ、根本的な原因は賃金上昇率が上がらないことでしょう。なぜ、日本の賃金上昇率は低いのでしょうか。

 

■労働市場の構造変化

賃金上昇率が低く留まっている要因の一つに、「労働市場の構造変化」が挙げられます。非正規雇用の比率は1990年の20.2%から2018年1月には38.1%と2倍近く上昇しました。
非正規雇用は正規社員に比べ低賃金ゆえ、非正規雇用の比率が高くなれば、失業率は自然と低下し、また賃金の伸びも鈍く抑えられる傾向にあります。

アベノミクスの成果として、GDPの拡大、企業収益の改善、就業者の増加などの各指標が改善したことが知られていますが、就業者の増加や失業率の低下については、労働市場の構造変化によるところが大きいと思われます。

 

■雇用状況調査

経済産業省が発表した「中小企業の雇用状況に関する調査」(2017年10月23日)によると、正社員の 1 人当たり平均賃金の引上げについて「引上げる/引上げた」とする企業の割合は、2016年度は 59.0%、2017年度は 66.1%でした。
賃金を引上げた企業に理由を尋ねると、下記のようになります。

 第1位・・・「人材の採用・従業員の引き留めの必要性」
 第2位・・・「業績回復・向上」
 第3位・・・「他社の賃金動向」

月給の引上げを実施した企業のうち、月給の引上げ額については、2016・2017 年度共に「6,000 円以上」が最も多く、月給の引上げ率は「1%~2%未満」が最も多くなりました。月給の引上げ額の平均値は6,271円、中央値は5,000円です。

また、ベースアップを実施した企業のうち、ベースアップ引上げ額は206・2017 年度共に「1,000~2,000 円未満」が最も多く、引上げ率は「1%未満」が最も多くなりました。月給のベースアップの平均値は3,678円、中央値は2,000円です。

■海外への投資が増加している

賃金上昇率が低く留まっている要因の二つ目として、日本から海外への投資にあるようです。財務省が発表した、2016年度末時点の海外への直接投資の残高は、159兆1,940億円。
前年を上回るのは6年連続で、海外での企業買収が活発になっていることが要因とみられます。10年前の2006年度末では53兆4,760億円でしたので、この10年で3倍になっています。
(参考:財務省 本邦対外資産負債残高)

日本企業は、縮小する国内市場への依存を減らし、 海外への投資をシフトする必要があると判断しているようです。あるいは海外に勝機を見出している経営者が多いのかもしれません。
安倍首相が経済界に対して賃上げを要請しているのは、企業や労働者の力だけでは、「海外への投資 → 利益がでる → 海外へ再び投資」の流れが止まらないためでしょう。
今後は海外における稼ぎが国内の投資や賃上げに、どれほど回るか注目されます。

 

■大学進学率と賃上げ効果

また、三つ目の要因としては、大学進学率が横ばいに推移していることによる「賃上げ効果」の薄れが指摘されています。
文部科学省の学校基本調査によると、2017年の大学進学率(学部)は52.6%でした。しかし、携帯電話サービスが開始された当時、1987年は24.7%でしたので、約30年間で2倍になった計算です。
大卒は高卒に比べると賃金が高い傾向にあり、大学進学率の上昇は全体の賃金水準を底上げする大きな要因となります。しかし、ここ10年あまりは進学率が52~53%前後で踊り場状態にあり、賃上げ効果に陰りが見え始めているとの見方があります。
厚生労働省がまとめた「賃金構造基本統計調査」(2017年度)では、学歴別に平均賃金をみると、男性では大学・大学院卒が39万7,000円である一方、高校卒が29万円であり、10万7,000円の開きがあります。

また、勤続年数とともに賃金があがる「賃金カーブ」についても、高校卒はカーブが緩やかであり大学・大学院卒ほど上昇しません。
賃金のピーク時である50~54才における賃金を比較すると、男性で大学・大学院卒と高校卒との差額は18万2,000円にのぼります。

こうしたデータからも、「大学進学率の上昇 = 賃金の底上げ」といった図式が今までは成立していましたが、進学率が横ばい状態であることに加え、高齢者雇用が広がる見込みであり、企業は正社員の賃金カーブを緩やかに抑えている可能性があるそうです。
(参考:『日本経済新聞』3月9日号「賃金再考」)

一昔前までは、引越といえば学生アルバイトを大量に受け入れる仕事でしたが、18年春は「引越難民」という言葉さえ生まれるほど、人手不足に陥っています。特にドライバーが不足しており、獲得競争の状況を呈しているそうです。

非正規雇用は、長期雇用の保証がない反面、その賃金は景気の変動に左右され、人手不足が顕著な建設業界などでは4年ほど前から賃金の引上げが行われています。一方、正規社員は、終身雇用が原則ですので、将来の企業業績や景気変動リスクを見極める必要があり、賃金が据え置かれる傾向にあります。
このまま企業業績が伸びたならば、企業は非正規のみならず正規においても、雇用の確保や流出阻止のために賃金を引上げ始めるはずでしょう。2018年1月の完全失業率は2.4%となり、1993年4月以来の低い水準となったことも追い風となるに違いありません。

 

 

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