藤田晋氏に倣うリーダー論(1)(Vol.368)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

創業から今年でちょうど20年となるサイバーエージェント。社長を務める藤田晋氏は、インターネットの黎明期に頭角を現し、スマホサービスやゲーム展開を進め、現在ではネットテレビ局AbemaTV(アベマTV)」の推進に注力しています。どのように組織を導き、会社を成長させてきたのでしょうか。

今回のビジネスEYEでは、「藤田晋氏に倣うリーダー論(1)」をお届けします。

人材の確保や育成の課題に向き合う

サイバーエージェントは、インターネット広告事業を祖業としながらも、メディア事業、ゲーム事業、投資育成事業と、環境変化に柔軟に対応しながら拡大を続けています。1998年3月に創業後、2000年にはマザーズに上場、2014年に東証1部には上場市場を変更、今では、100社を超える子会社があり、従業員数は連結で3,800人を超えています。

藤田社長は創業前に、人材派遣会社のインテリジェンス(現パーソルキャリア)で営業の職に従事されたそうです。その経験から「いい求人広告を出しても、人気のない会社には優秀な人材は集まりにくい」という現状を目の当りにしたそうです。

そのため、創業間もないサイバーエージェントでは、人材確保を最優先にしました。

新卒を戦力化

日本においてインターネットが浸透し始めた90年代後半は、1995年にマイクロソフトが「Windows95」を発売、1996年に「Yahoo! JAPAN」がサービスを開始するなど徐々にインターネット業界に新しい芽が生まれる時代でした。サイバーエージェントもまだ知名度のない時期でしたので、IT経験者を採用するのも困難でした。そこで藤田社長は、「広告業界」や「IT業界」を志す新卒を中心に採用活動を始めたそうです。広告業界を目指し大手企業への就職を志望していたものの、採用に至らなかった優秀な学生をサイバーエージェントが獲得して育成したそうです。

当時は、需要が旺盛な時期であり、まだ知識の浅い社員であったとしても、お客様を訪問していれば、何らかの受注をもらえた時代だったそうです。藤田社長はあえて細かく指示をださず、社員には自分で目標を決めて伸びてもらうように仕掛けをしたそうです。

若手が挑戦できる環境づくり

大きな設備投資などを必要としないインターネット業界では、人材が重要な経営資源であり、人材の育成が企業の競争力に直結します。そうしたことから、サイバーエージェントは若手が果敢に挑戦できる環境づくりに注力しています。その象徴ともいえる例が、「新卒社長」でしょう。若手の抜擢が活発に行われているサイバーエージェントでは、新卒として入社し、子会社の社長に就任する社員のことを「新卒社長」と呼ぶそうです。

驚くことに、入社1年目から子会社社長に就任するケースもあるそうです。社長に就き決断機会を数多く経験することが、個人の成長につながると藤田社長は考えているそうです。

また、次世代リーダー育成制度「CA36」という制度も、人材育成を目的としています。原則として20対象とし、部署・職種関係なく18名を選抜して、役員が講師となる月1回の研修を行っているそうです。マネジメント志向の社員だけでなく、技術者やクリエイター、広告営業から本社機能、サービスのプロデューサーまで様々な職種から選抜しており、部署をまたいだ交流と役員や幹部社員との接点を生んでいます。

コミュニケーションを促進

組織が大きくなればなるほど、社員のコミュニケーションが希薄になってしまう傾向は一般的にあると思われます。しかし変化の早いインターネット業界においては、少しの遅れが致命的となり、サービスが陳腐化してしまう側面があるようです。そうした意味でも、社員間あるいは経営陣と社員とのコミュニケーションが重要となります。年に1回、サイバーエージェントグループ全社員が参加する社員総会を実施しているそうです。

経営方針プレゼンのほか、MVPなどの表彰式を行い、活躍した社員を称え、新人賞などいくつか表彰し、本人のやる気をさらに高める工夫があるそうです。

また、企業文化の醸成と社内活性化のためのツールとして「社内報」が活躍しています。社内で活躍している人材を取り上げたり、成功事例について掲載したりするなど、部署内や横軸組織のコミュニケーション活性化目的のために作られています。所属社員も多いことから、社員の魅力を発見して発信することを心がけているそうで、社内報は、ゲーム事業部やインターネット広告事業など、その数「8」個もあるそうです。

会社へのロイヤルティ(忠誠心)を高めるための工夫

サイバーエージェントでは市場環境の変化に合わせ、これまで多くの新規事業を立ち上げ、大型のM&Aに頼らない自前成長を続けています。社員が安心して大きな挑戦を続けるためには、優秀な人材がワーク・ライフを充実させながら、長く継続して働けるための工夫が不可欠です。

サイバーエージェントには、家賃補助制度「2駅ルール・どこでもルール」があります。会社から2駅以内の近距離に居住する社員には、月3万円の住居手当を支給し、また、5年経過すればどこに住んでも5万円支給するルールというルールです。こうした制度が浸透することで、会社の近くに住んでいる人が多く、社員が近所づきあいや友達づきあいの延長で仲良くなるという効果が生まれるそうです。
サイバーエージェント内に社内結婚が多い理由も、こうしたプライベートでも知り合う機会を多く作っていることが挙げられるでしょう。
(参考:サイバーエージェントHP/日経テレコン21)

成長市場のインターネット産業を支える若い力

海を越えたアメリカでは、現在IT大手のアップルとFacebook(以下、FB)の首脳同士が、個人情報を利用する事業モデルを巡り、対立を深めているようです。アップルのクック最高経営責任者(CEO)が利用者の情報を活用し広告収入を稼ぐFBの事業モデルに否定的な考えを示したのに対し、FBのザッカーバーグCEOは反発しています。

こうした倫理観に触れるような揺れ戻しは時折起きると思われますが、インターネット産業はこれからも右肩上がりの成長市場であることは間違いないでしょう。家電や車などあらゆるものがネットに繋がるIoTの発展も見込まれ、ネット上で行われるEコマース、広告、金融など、あらゆる商取引が盛んになると予想されています。

サイバーエージェントの社員の大半は、まだ20代や30代であり、これから10年以上、さらなる新規事業の開拓と発展が続くとみられます。藤田社長の組織づくりは、「優秀な人材を集る」、「若手でも抜擢する」、「挑戦させる」という機動力に富むものです。こうした工夫が有機的に結びつき、事業の発展を生んでいるのでしょう。

 

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