2018.04.26

ビジネスEYE Vol.371


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

人口減少の日本にあって、マイナス金利の導入で一段と厳しさを増す金融機関。メガバンクでは支店の統合や相次ぐ人員削減を進めています。そんな苦境のなかにあっても、業績を伸ばしている信金・信組は存在します。逆境を生き抜く地域金融機関は、どんな戦略をもっているのでしょうか?

今日のビジネスEYEは、「ビジネスチャンスを獲得する信用組合」です。

 

■<第一勧業信用組合> [人と人との信頼に着目して判断する]

マイナス金利の影響により、貸出利息は低下の一途を辿り、金利競争も激しくなっています。地方銀行と肩を並べるように貸出競争に明け暮れる信金・信組がある一方、この状況を乗り越えようと地力を発揮しているところもあります。
第一勧業信用組合は、都内に22店舗の営業店を持つ地域密着型の金融機関です。2016年にマイナス金利が導入されて以降も安定して高い純利益を上げ続け、2017年3月期にはマイナスだった利益剰余金がプラスに転じました。
特徴的なのは、独自に作り上げた「コミュニティローン」の存在です。人と人との信頼に着目し、地域における人的つながり(コミュニティ)の中での評判に基づき、事業への取り組みなどを見極めて融資をしているのです。つまり、従来のような土地や有価証券等の担保あるいは保証人に依存しない新しい形のローンです。
コミュニティローンの第一号は、「芸者ローン」です。文字通り、花街の芸者向けの無担保・無保証の事業ローンで、2016年春に独立・開業資金として提供されました。
コミュニティローンの種類は、現在では340種類にのぼります。「○○商店街ローン」、「△△町内会ローン」、「のれん分けローン」等々、多くのコミュニティを応援することで、地域づくりに貢献しています。同ローンは、普段から顧客の顔が見える付き合いをしている同信組だからこそ可能だったと言えます。新田信行理事長は、地域のお客様と接し原点に立ち返ることで、こうした新しいサービスを誕生させたと語っています。

■<広島市信用組合> [投信も保険も売らない]

広島市信用組合は、広島市を中心に34店舗、従業員約400名の金融機関ですが、本業である預金と融資に集中することで驚異的な数値を叩き出しています。預貸率は86%(業界平均53%)、貸出率の残高の5年伸び率は33%(業界平均12%)と、業界平均を大きく上回り、経常収益は14期連続の増収を達成しています。
広島市信用組合で特筆すべきは、スピード感です。地元企業や個人への資金をタイムリーに提供できるよう、通常だと数週間~1カ月以上かかる融資案件の審査を必ず3日以内に実施するそうです。山本理事長をはじめ幹部は、早朝午前6時45分に集まり、融資の審査について喧々諤々の議論を行うそうです。一般社員は午前8時10分まで建物に入ることが許されないそうで、即断即決で企業の資金需要を支えています。
融資で稼げないため、投資信託や生命保険を売って手数料で稼ぐという金融機関は多々ありますが、同信組はそうした「副業」に手を出さず、本業に特化しています。お客様への徹底的な訪問を通じ、経営者との細かなやりとりにより、融資につながる情報や倒産の危険性を察知する強みを持っています。

■<塩沢信用組合> [無理に顧客を囲い込まない]

新潟県に本店を置く塩沢信用組合。県内地銀同士の合併(第四銀行・北越銀行)が決まるなど、業界再編の激変が予想されるなか、職員数わずか50人程度の同信組は、小規模ならではの戦い方をしています。同信組は、かつては「新潟県内で最低」と揶揄された苦渋の時代がありました。バブル崩壊時には地域内の古い取引先を見捨て、リーマンショック時には有価証券で多額の損失が明るみになるなど、地域社会からの信頼を完全に失った時代がありました。そうした状況を打破するため、生え抜きとして小野澤氏は理事長に就任し、改革に着手したそうです。
理事長就任以降、「お客様を第一に」を徹底し、地域住民の信頼回復につとめました。顧客が他行への住宅ローンの借り換えを検討していた場合でも無理に引き止めず、逆に同信組の職員を交渉の場に同席
させるなどしたそうです。「無理に顧客を囲い込まない」姿勢が評価され、現在では県内でも有数な健全経営で知られるまでになりました。

■<いわき信用組合> [常識にとらわれない]

東日本大震災後、わずか2日で営業を再開した同信組。震災直後、着の身着のままで避難することを余儀なくされた被災者に対し、無担保、無保証の低利ローンを提供したことで知られています。普段から顔の見える関係であったことから、たとえ身分証明書がなくても資金を提供できたのでしょう。
同信組は、現在、復興需要に伴う好況業種の法人預金の増加等を要因として、預金残高が前期末比47億円以上増加するなど好調です。当期利益は10億3,300万円を計上しており、財務の健全性を示す基本的指標である自己資本比率(国内基準4%以上)は16.75%となっています(平成29年9月末現在)。
また、地域の異業種間連携を促すためのセミナーや創業塾の開催といった多様な資金調達手段の提供を通して地域密着型金融への取組みを進めています。そうした取組みが、復興需要と相まって実を結んでいます。

上記の例は、地域金融機関だけに当てはまるものではなく、置かれた環境を認識して、ビジネスモデルに磨きをかけることで、道は開けていくことを示しています。斜陽産業の代表と見なされがちな地域金融ですが、再び成長産業になるための方程式は残されているようです。
(参考:『日経ビジネス』崖っぷちの地域金融を成長産業にする「4つの掟」2018.3.26号)

1998年の大学生を対象にした就職企業人気ランキング(文系)をみると、住友銀行(5位)、富士銀行(6位)、三和銀行(8位)と10位以内に3行がランクインしています。また、信託銀行を含めると上位20社に8行が入るなど、銀行は人気の就職先でした。

現在はどうでしょうか。

「マイナビ・日経 2019年卒大学生就職企業人気ランキング」(文系)によると、三菱UFJ銀行(4位)、三井住友銀行(6位)と、10位以内に2行がランクインしています。合併による統廃合で銀行数は減っていますが、ランキング自体が後退しています。就職先としての人気に陰りでしょうか。
さらに、東京大学・京都大学の就活生のみを対象にしたランキングでは、銀行は10位以内に入っておらず、上位には全く異なる顔ぶれが並びます。
最も人気が高かったのはマッキンゼー・アンド・カンパニー(1位)、その他にもボストン コンサルティング グループ(3位)やアクセンチュア(4位)といった外資系コンサルティンングファームへの人気が高くなっています。
(参考:『PRESIDENT』 2018年1月15日号)

顧客ニーズに対応して、より焦点が絞られたサービスを開発し、優れたサービスによって自社を差別化している企業は業績を伸ばしています。業界には暗雲が漂っていますが、新たな指針のもとに実行力を兼ね備えた金融機関には、地域を輝かせ、人を輝かせる可能性が秘められています。新しいチャンスを自らのビジネスに取り込むのは、将来ではなく、今なのでしょう。

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