「貧テック」とは何か?(Vol.373)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

フィンテック(Fintech)とは、金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた造語で、新しいテクノロジーを活かした金融サービスを指すことは、ご存じの方も多いでしょう。しかし、ある種のフィンテックが、「貧テック」と呼ばれているのをご存じでしょうか?

今日のビジネスEYEでは、「貧テック」とは何か?をお伝えします。

フィンテックが私達の生活にもたらす変化

フィンテックの登場により、スマホ、クラウド、AIなどを駆使した新しい形の金融サービスが誕生しています。身近なところでは、スマホでのクレジットカード決済や、家計簿アプリ等にも、フィンテックの技術が生かされています。新しいソフトやソリューションを開発したベンチャー企業などが高利便性・低コストの金融サービスを提供する事例が今後も増えると見込まれています。

【個人向けのフィンテックサービスの一例】

・いらないものを現金化する   ・・・「メルカリ」/「キャッシュ」
・今お金がなくても買い物ができる・・・「ペイディー」/「ゾゾタウン」(ツケ払い)
・働いた分だけ、先に給料をもらう・・・「ペイミー」
・仲間や同志からお金を募る   ・・・「キャンプファイヤー」/「ポルカ」
・自動的に小銭をためる     ・・・「しらたま」/「フィンビー」

こうしたサービスは、スマホの浸透とともに広がりをみせています。その代表例が、マザーズへの上場を発表した「メルカリ」でしょう。同社は、家庭内で不要になった品物を売買できるフリマアプリを提供しています。出品の手軽さが受けて利用者を伸ばしています。

一度使ったが色が合わないと判断した化粧品、子供が成長してもう使わなくなった子供服など、今まで市場では価値があると判断されなかった商品も売買されています。不要品を現金化し、小遣い稼ぎを楽しむ人も多く、主なユーザーは、10代の学生や20代~30代の女性です。

貧テック1 ~家計を助けるフィンテック~

現在、非正規雇用の増加や給与の伸び悩みにより、生活が苦しい人が増加しているようです。金融広報中央委員会が発表した2017年版の「家計の金融行動に関する世論調査」によると、貯蓄ゼロは日本の家庭の3割、20代独身では6割に及んでいるそうです。

そうした生活に余裕がない人達にとっては、時間とスマホがあれば、ある程度の消費を楽しむことができるというスタイルが、フィンテックがもたらした「貧テック」なのです。

「サラ金」の低迷

もう一つ、フィンテックがもたらす影響が、消費者金融いわゆる「サラ金」に、あらわれているとの見立てもあります。サラ金は、1990年頃から駅前などに設けた自動貸出機の増加もあり、気軽に利用でき、個人はもちろん、中小・零細企業の事業継続を支援してきた側面があります。しかし多重債務などにより貸金業法が改正されると、サラ金の経営は圧迫されました。金融庁の統計によれば、2005年度に約20兆円あった消費者向け貸付残高は、2016年度には約6兆2,000億円となったそうです。

この差額はおよそ14兆円です。そのうちの2.5兆円は貸金業法の規制を受けない銀行系のカードローンからの借り入れなどに移ったようです。では、残りの10兆円超のお金は、どうなってしまったのでしょうか。

■貧テック2 ~サラ金の代替か~

日本貸金業協会が「借入できなくなった際に取った行動」について質問したところ、半数以上が「支出を抑えた」と回答したそうです。つまり、借りられなくなった分、趣味や外食などを控え家計をやりくりして、つつましく暮らすようになったと想像されます。
そんな中、個人を対象とした数々のフィンテックサービスが誕生しました。フリマアプリを通じた中古品販売もその一つです。家計消費が振るわない中で、個人間の中古品取引市場は急拡大しているのが現状です。

経済産業省の推計によれば、中古品取引市場は5年前の約1.2兆円から約2兆円に成長。代表格の「メルカリ」がサービスを開始した2013年以降、伸び率は大きくなっています。中古品市場が拡大すれば、不要品の売却によって収入を得る人や、欲しいものを新品よりも安く買う人が増えます。売却で得た資金や、新品を買わずに浮かせたお金を、別の消費や生活費の一部にでき、消えた14兆円の一部を補完しているとみられます。

■貧テック3 ~若年層や低所得者に新しい資金を提供~

ITの進化によるデータ社会の到来により、与信の尺度は多様になり、信用力がまだ低い若年層や低所得者にとっては、フィンテックの隆盛が救世主となると予想されます。従来の金融サービスが救いきれなかった需要を掘り起こす可能性があります。

例えば、フィリピンでは、バイクに取り付けた発信機のデータを解析して、融資するかどうかを判断するサービスが既にあり、また、中国では、SNS上の発言や人脈等を収集・解析して、独自の与信判断を持つところもあります。担保となる不動産や資産を査定する従来型の与信判断は過去のものとなり、フィンテックの進展と共に、より柔軟性のあるものに変化を促しているようです。

日本でも、働いた分だけ先に給料をもらう「ペイミー」や、仲間や同志からお金を募る「ポルカ」など、テクノロジーの力で次々と新しい仕組みが開拓されています。個人向けのフィンテックによって資金調達手段が増えると、従来の金融サービスでは信用度が低く扱われてきた若者層や低所得者に新たな機会を与えられることになります。若年層や低所得者が牽引する「貧テック」は、既存の金融サービスに変化をもたらす可能性を秘めているといます。(参考:日経ビジネス 2018年5月7日号)

 

バブル後の1992年に、『清貧の思想』(中野 孝次著/草思社)がベストセラーになり、書名に掲げられた「清貧」あるいは「清貧の思想」は「時代の言葉」となりました。身の丈にあった清楚な生活を旨とする思想は、バブルに酔いしれた人々に猛省を促しました。

今回の取り上げた「貧テック」は、スマホを片手に最新のサービスを駆使するスタイルであり、「清貧」とは、趣が異なるものとなります。虚飾を捨てて控えめに暮らすのではなく、自らのやりたい夢や願望を実現するために、「給料の前借り」「ツケ払い」「中古品販売」等のサービスを使いこなす、やりくり上手な最新スタイルだとも言えるでしょう。

テクノロジー技術の向上とともに様々なソフトウェアが出現し、経済や社会、また、生活スタイルを変化させた一つの象徴が「貧テック」なのかもしれません。

 

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