2018.05.25

ビジネスEYE Vol.374


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

ネスレ日本が、目覚ましい成長をみせています。
新しいビジネスモデルが次々ヒットし、停滞する日本の成熟市場においても、強さを発揮しています。
本日のビジネスEYEでは、「快進撃を続けるネスレ日本」を考察します。

■ビジネスモデルを次々に開発
ネスレ日本は、2010年から代表取締役社長兼CEOに就任した高岡 浩三氏のもと、「キットカット」、「ネスカフェ アンバサダー」等を大ヒットさせ、脚光を浴びています。
ネスレ日本の売上高は(2011~2015年)、平均で3.4%増でした。また、2016年の上半期では売上高5.2%増、営業利益額は前年同期比で7.3%増と絶好調です。2010年前後から、時代の変化を取り込んだ問題解決型の新商品を提供しています。

【ネスレ日本の快進撃を支えるビジネスモデル】
・「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」
単身家族の増加に伴い、一人でもおいしいコーヒーを飲むためのマシンを提供

・「ネスカフェ アンバサダー」
職場で無料の飲み物の提供が減っている中、安価でおいしいコーヒーを提供する仕組み

・「キットカット ショコラトリー」
高級チョコがブームを背景に、ナショナルブランドと差別化したプレミアムチョコを発売

・「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタi(アイ)」
核家族化が進む状況を受け、高齢の親の安否が確認できるIoT機能を搭載したマシンを提供

一杯抽出型コーヒーマシンの誕生

先進国では特に、核家族化の進行や単身世帯の増加が進行しています。そうした変化に伴いインスタントコーヒーをつくるために、湯を沸かすなどの準備を面倒に感じる人が多くなっているそうです。
スイスのネスレ本社でも若年層におけるインスタントコーヒー離れの動きに対する対応策が検討されていたこともあり、2000年頃から開発がスタートしたそうです。
そして日本において、手間をかけずに1人分のコーヒーができる専用のマシンが完成しました。2009年4月に販売を開始したところ、「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」等の「一杯抽出型コーヒーマシン」は爆発的に普及しています。現在、累計540万台を突破しています。
さらに、コーヒーマシンの普及に伴ってカートリッジの販売も伸び、2016年1~6月の成長率(金額)は、前年比32%増となっています。「ネスカフェ」全体の力強い成長をカートリッジが牽引しています。

新しいビジネスモデル「ネスカフェ アンバサダー」

上記のコーヒーマシンの普及に伴い、職場でもそのコーヒーを楽しめるようにと、「ネスカフェ アンバサダー」が誕生しました。「ネスカフェ アンバサダー」は、コーヒーマシンを職場に無料提供し、パックの購入や飲んだ分の代金回収を行うヒト、及び仕組みをいいます。既に40万件の申し込みを突破しているそうです。
順調に推移している背景には、職場の無料コーヒー提供が中止されていることが多く自分で飲料を持ち込まなければならなくなった風潮があるようです。外で買うと高く、自宅から飲料を運ぶのは荷物が重くなり負担に感じます。そうした部分の隙間をうまくついて、広がりをみせているようです。

このモデルのカギは、ネスレ日本はアンバサダーに謝礼を払っていない点にあります。
「オフィスでおいしいコーヒーを飲むための世話係になる」という人の善意が、どれだけビジネスモデルとして機能するか、最初は手探りの部分も多かったそうですが、ふたを開けてみると、アンバサダーとなる人々は非常にモチベーションが高く、同じ職場で働く方々に歓迎されたそうです。また、コーヒーを通して職場に会話が生まれ、オフィスの雰囲気が良くなるというプラスの効果ももたらしたそうです。
ネスカフェは、家庭内消費では非常に強いものの、一歩外に出るとコーヒーチェーン店や、コンビニなどの競合も多く、「外に弱い」という弱点があったそうです。その部分を補うものが、「ネスカフェ アンバサダー」でした。さらに、アンバサダーを軸にeコマースも連動して伸びる、好循環も形成しています。

新しいセグメントを作る

ネスレ日本のヒットの定義は、新しいセグメントを作ることにあるようです。例えば、「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」は、「一杯抽出型コーヒーマシン」のセグメントをレギュラーコーヒー分野に新しく作ったことになります。同様に「ネスカフェ アンバサダー」も、オフィス内でおいしいコーヒーを飲むための新しいセグメントになり、コンビニとも違うカテゴリに属します。
こうした新しいセグメントには、競合相手もいませんので、当然ながら利益率も高くなります。後発で似たようなビジネスモデルを手掛ける企業も出てくるかもしれませんが、それまでの間はシェアも高くなり、eコマースも活性化するでしょう。こうした新しい仕組みを構築することこそが、ネスレ日本におけるヒットの定義なのです。

イノベーションを生み出し続ける

外資系企業の代表的な会社である「ネスレ」の日本法人であるネスレ日本が、日本ならではの環境を理解して、試行錯誤をしながら、新しいイノベーションを生み出し続けていることは、注目すべき点でしょう。環境の変化をビジネスチャンスと捉え、日本社会が抱える問題の解決にビジネスで応えるという姿勢が貫かれています。
少子高齢化が進行する日本で成功したビジネスモデルであれば、これから高齢化が進む他国にも普及が可能となるでしょう。現に、「キットカット ショコラトリー」は日本で独自に始まったものですが、ロンドンやクアラルンプール、メルボルンといった海外の都市にも広がっています。

ネスレは世界189カ国・地域でビジネスを展開する「食」のグローバル企業です。成功したビジネスモデルをローカライズしながら、世界で展開することは可能でしょう。イノベーションを生み出し続けることが、企業に好循環をもたらす模範的な例となるでしょう。
(参考:『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)

 

高岡氏は日本人の生え抜きとして初めて、ネスレ日本の社長になりました。現地法人の社長は、祖国を出て世界中でキャリアを積む“インターナショナルスタッフ”が就任するのが通例でしたので、例外的な人事となります。
高岡氏は、これまで「キットカット」「ネスカフェ アンバサダー」に携わってきた過程で、目標を下回ったことがなく有言実行であるという点が、スイス本社にも高く評価されたようです。
日本のように成熟し、「特に欲しいものはない」という人が多い国では、「マイナス成長でも仕方ない」と、考えてしまいがちです。しかし、高岡氏は日本市場と真摯に向き合いながら考え抜き、失敗も重ねながら「キットカット」「ネスカフェ アンバサダー」を成功に導きました。
これからの日本の経営者にとっては、高岡氏率いるネスレ日本の戦略は、示唆に富むものとなるでしょう。次号でも、ネスレ日本及びネスレについてお伝えする予定です。

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