2018.05.31

ビジネスEYE Vol.375


中村 亨の【ビジネスEYE】です。
2017年のグループ売上高は、約9兆8,699億円。
全世界に32万人もの従業員を持つ、世界最大の食品飲料会社であるネスレ。
食品というオールドエコノミーを主戦場にしながら成長を続けています。

本日のビジネスEYEでは、「長期戦略で成長するネスレ」を考察します。

■時価総額26兆円 世界第13位

ネスレはスイス・ヴヴェイに本社を持ち、世界189カ国・地域でビジネスを展開する「食」のグローバル企業です。設立は1867年、薬剤師だったアンリ・ネスレ氏が、乳児用乳製品を開発したことに始まります。
世界の時価総額ランキングでは、この30年間で顔ぶれが激しく入れ替わる中で、ネスレは成長を続け、ついに食の分野で第一位となりました。
【世界の時価総額ランキング(1997年)】
1位 ゼネラル・エレクトリック(アメリカ)
2位 コカ・コーラ(アメリカ)
3位 ロイヤル・ダッチ・シェル(イギリス・オランダ)
4位 NTT(日本)
5位 マイクロソフト(アメリカ)
6位 エクソン(アメリカ)
7位 インテル(アメリカ)
8位 トヨタ自動車(日本)
★38位 ネスレ(スイス)

【世界の時価総額ランキング(2016年)】
1位 アップル(アメリカ)
2位 アルファベット(アメリカ)
3位 マイクロソフト(アメリカ)
4位 エクソン・モービル(アメリカ)
5位 バークシャー・ハサウェイ(アメリカ)
6位 アマゾン・ドット・コム(アメリカ)
7位 フェイスブック(アメリカ)
8位 ジョンソン・エンド・ジョンソン(アメリカ)
★13位 ネスレ(スイス)

創業から約150年。長寿企業が、なぜ世界の第一線で成長を続けられるのでしょうか。

■M&Aを繰り返して食品で世界一位へ

現在のネスレの主な商品カテゴリーは、コーヒー飲料、ミネラルウォーター、菓子、乳製品・アイスクリーム、調味料・冷凍食品、ペットケア、栄養・ヘルスサイエンスなど7つに分かれます。ネスレの代表的な看板商品でも、自前で成長させたものは一部で、実は買収で手に入れたブランドが多いのです。

・1947年 調味料を生産するスイスの「アリメンターナ」と合併 → マギー(スープ、ブイヨン)
・1969年 仏・ミネラルウォーター「ヴィッテル」の株式30%を取得 → ミネラルウォーター市場に参入
・1985年 ペットフード「フリスキー」ブランドを買収 → ペットフードビジネスへ参入
・1988年 英・菓子会社「ロントリーマッキントッシュ」を買収 → チョコレート菓子「キットカット」ブランドを自社製品に追加
・1992年 仏・ペリエグループを買収 → ヴィッテルの全株式を取得し、ミネラルウオーター分野の展開を加速させる
・2007年 スイス大手製薬会社ノバルティスのヘルスケアニュートリション部門を買収 → 医療栄養分野拡大へ

ネスレは、「M&Aの会社」と言われることも多く、創業間もないころから、M&Aを繰り返しています。
1970年代には医薬品や化粧品へ事業領域を多角化した後には、不採算ブランドを手放し、「栄養・健康・ウェルネス」という新たな志に向けて増加する健康意識の高い消費者を満足させるブランドを推進しています。さらに現在では、既存の乳幼児製品や冷凍食品分野を強化する一方、医療栄養学の分野にも力を入れています。

■長期戦略の重要性

ネスレは、四半期決算の開示義務のないスイスで上場しています。短期利益の追求に敏感な、ニューヨーク・ロンドン・東京証券取引所から撤退することで、株主の意向を受けずに自社の戦略を忠実に実行するためです。
「食」の分野は保守的な側面があり、人々の習慣は一気に変化しません。パンとコーヒーで朝食をとり、休憩にチョコレート菓子を食べる……。こうした人々の嗜好は、消費者に提案を繰り返すことで認知度があがります。つまり、長期戦略で「文化」を提案するくらいの気概が必要なのです。
同社では、未来を見据えた息のながい商品づくりを基本としており、こうした戦略は、食料や飲料といった分野には非常に適しているのでしょう。

■売却する事業の見極め

M&Aを繰り返す一方、既存事業を整理する必要もあります。そこで、自社ブランドのなかで売却候補を仕分ける独自ツール「アトラス」を開発しました。「アトラス」を用いてカテゴリーの魅力や成長する土壌について分析をするそうです。
その結果2012年以降、4年間で総額約2,600億円もの事業を売却しました。日本においても2015年に、缶コーヒー部門から撤退しています。
自らの戦略に適応するものを手に入れ、また状況によっては売却をする。その繰り返しがここまでの地位と規模を築いたのです。

■小国にして最強の「スイス」

世界経済フォーラム(WEF)が2017年に発表した国際競争力ランキングによると、スイスは8年連続で首位を維持しています。技術革新やビジネス環境、従業員の効率性で高い評価を保っています。
国土面積が広くないスイスは、それぞれの産業においては高付加価値の分野に特化し、スイスブランドという競争優位を最大限に生かして世界市場を目指して競争力を高めています。ネスレのM&Aの仲介役となる投資銀行には、クレディ・スイスやUBSといったスイス企業が選ばれています。そうしたスイス企業同士の情報ネットワークも、ネスレの強力な援軍として機能しているのでしょう。今後も提携や買収は続くと思われます。(参考:『週刊ダイヤモンド』2016年10月1日号)

日本でM&Aを繰り返している企業といえば、ソフトバンクがまず挙げられるでしょう。同社では、ヤフー、アリババ、アームなど、20年・30年先の未来を見据えて買収を繰り返しています。

また、最近では、フィットネスクラブを運営するRIZAP(ライザップ)グループも、サンケイリビング社やサッカーJ1・湘南ベルマーレなどを買収して話題となっています。ライザップは、潜在能力はあるものの企業として存在感を発揮しきれていない企業を買収して、ライザップ流で再生させています。さらに、カルビーの松本晃 会長兼CEOを、新設の最高執行責任者(COO)に迎えるとの発表がありましたので、今後ライザップの存在感はさらに高まる可能性があるでしょう。

ネスレの場合、一貫して長期戦略でブランドの構築を進めており、競合他社との「違い」をつくるための施策を多く打ち出しています。
その過程のなかでM&Aを実施して長期利益につなげています。また、スイスのみで上場するなど、経営に関わる全ての要素を最適化しています。
5月7日、ネスレは米スターバックス社の商品を世界的に販売することで合意したと発表しました。カプセル式製品である「ネスプレッソ」等にスターバックス・ブランドを活用する予定で、提携の一環として71億5000万ドルを支払うとしています。競争が激化しているコーヒー飲料分野において、次の一手を打ってきました。食の帝国「ネスレ」は、長期展望に立ち大きな絵を描きながらも、業績を積み重ねてきたという自信に溢れているようです。

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