2018.06.28

ビジネスEYE Vol.379


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

近年、海外企業を買収し、事業を拡大している日本企業が多くなっています。先月22日には、武田薬品工業が日本企業による海外企業の買収としては過去最大となる約6兆8,000億円で、アイルランドの製薬大手シャイアーを買収すると発表しました。

M&Aにおいては「のれん」※がつきもの。日本企業の「のれん」残高が、かなり増えていると思いきや、欧米企業と比較するとまだまだ低水準のようです。

※「のれん」とは、企業を買収する際に生じる無形資産の一種で、買収先企業の純資産と実際の買収額の差額を示します。

本日のビジネスEYEでは、「海外M&Aの余力は大きいか?」を考えます。

 

■「のれん」純資産に対する比率は欧米に比べ低い

国内市場が成熟する中、企業買収を通じて海外市場に活路を見出す企業が増えています。日本経済新聞によると、2018年3月までに決算期を迎えた上場企業約3,500社(金融など除く)を集計したところ、のれん総額は23兆3,922億円となり10年前の2.3倍に膨らんでいるそうです。その反面、純資産に対するのれんの比率は6%にとどまっており、10年間に1ポイントしか上昇していません。

のれんを定期償却しない会計基準を採用する欧米企業は、純資産に対する比率は平均で40%~50%と高い割合にあります。(定期償却しないものの最低毎年1回の減損テストの実施は必要)欧米企業と比較すると、日本企業がまだまだ比率が低いことがうかがえます。米主要500社は平均50%、欧州主要600社は平均42%に達するそうです。

【のれんの対純資産比率、%】※カッコ内は、のれん金額
◇国内企業
1位 ソフトバンク 69%(4.3兆円)
2位 JT        67%(1.9兆円)
3位 NTT     11%(1.3兆円)
4位 武田薬品工業 51%(1.0兆円)
5位 キヤノン   30%(0.9兆円)
6位 電通     69%(0.8兆円)

◇欧米企業
1位 ABインベブ/ベルギー 1.8倍(15.9兆円)
2位 AT&T/米国        74% (11.9兆円)
3位 GE /米国        98%(9.5兆円)
4位 BAT / 英国        72%(6.7兆円)
5位 ダウ・デュポン/米国  58%(6.7兆円)
6位 ファイザー/米国            78(6.3兆円)
(参考:日本経済新聞:6月7日号)

 

■日本企業の海外M&Aは勢いが増している

現状、日本企業の対純資産比率は6%とまだ低い状態にあります。欧米主要600社の平均が42%に達することを勘案すると、買収余力は大きいといえるのかもしれません。近年、精力的に海外のM&A案件を進めている、ソフトバンク、JT、武田薬品工業、電通は、のれんの対純資産比率は5割を超えており、欧米並みのリスクを取りながらシェア拡大の道を模索しています。

2018年に入り、日本企業が発表した海外M&A案件は金額ベースでは約269億ドル。日本が6年ぶりに中国を抜く勢いとなっているそうで、武田薬品工業のような大型案件が増加していることが、寄与しているようです。

東京証券取引所の「適時開示」ベースでは、2018年1~5月の買収案件は253件、そのうち海外企業のM&Aは41件となっています。約16%が海外の案件となっているようです。金融緩和策により市場には潤沢な資金が供給されていることもあり、海外M&Aは、将来の企業価値向上を図り、海外企業との競争に対抗するための一つの重要な手段となっているようです。

とはいえ日本企業のM&A投資は、まだ歴史が浅い上に、文化や言語の違いもあり、海外企業の買収の8割が失敗に終わっているとも言われています。日本の大手企業が、海外のM&Aで巨額の「のれん代減損」を計上するケースは後を絶ちません。

2015年に日本郵便は6,200億円でオーストラリアの物流会社トール社を買収したものの、業績不振で2016年度決算で4,003億円ののれん代の減損を計上しています。大雑把に表現すると、6,200億円をだして買収した子会社が、実際には2,200億円の価値であったということになります。M&A実施後に、海外企業の収益が予想外に伸びず、資産価値が大きく減少したことが、大きな原因となることが多いようです。

のれんの対純資産比率からは、日本企業が今後も海外企業を買収できる伸びしろがうかがえるもののM&Aをすること自体が目的化したり、高値掴みをしてしまっては本末転倒でしょう。M&Aに積極的になりつつも、デューデリジェンス等のプロセスや投資後の経営については、細心の注意を払うことが必要なことは言うまでもありません。

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