海外戦略の加速とIFRSの導入(Vol.382)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

国際会計基準(IFRS)を適用する企業が、年内に200社に達する見通しとの報道がありました。IFRSは、海外M&A(合併・買収)後の会計処理に利点があるため、グローバルビジネスを展開する企業が、積極的に導入に踏み切っているようです。

本日のビジネスEYEでは、「海外戦略の加速とIFRSの導入」を考察します。

 

IFRS(国際会計基準)とは?

IFRSとは、国際会計基準審議会(IASB)によって設定された会計基準を指します。
正式名称は、International Financial Reporting Standards(国際財務報告基準)。

会計基準をIFRSに移行することで、どこの国の企業であっても、共通のモノサシで企業の実態を把握できるようになります。また、企業の財務情報の基礎となる会計基準が同じであれば、投資情報の比較可能性が高まるため、投資判断が効率的に行え、海外に子会社を持つ企業やM&Aで海外市場を開拓する企業、グローバル企業などは、財務情報作成などの会計処理の効率化などが期待できます。

 

買収後の会計処理に利点がある

東京証券取引所「適時開示」ベースによると、2018年上半期(1~6月)の買収案件は281件で、そのうち海外企業のM&Aは47件となっています。

M&Aを実施すると、買収価格と買収した企業の純資産の差である「のれん代」が発生します。日本基準ではのれん代を費用として毎年償却しますが、IFRSでは定期償却を行いません。そのため、のれん代が膨らんだ場合でも、IFRSであれば会計上の利益が減りにくいことがあります。そうした点がM&A後の会計処理に利点があるとされる由来です。

M&Aに積極的な企業(武田薬品工業・日本電産・ソフトバンクグループ等)は、すでにIFRSに移行しており、2019年3月期にはNTTグループや三菱重工業、京セラなど大手企業が続々とIFRSを適用予定です。
(参考:日本経済新聞 2018年7月16日)

 

戦略的にIFRSへ移行するNTTグループ

持株会社のNTTを筆頭とした、グループ各社は、2019年3月期第1四半期からIFRSへの移行を発表しています。
【NTTグループの会計基準の変更】
・日本電信電話(NTT):米国基準からIFRS適用へ
・NTTドコモ :米国基準からIFRS適用へ
・NTTデータ :日本基準からIFRS適用へ
・NTT都市開発:日本基準からIFRS適用へ

グローバル戦略を担うNTTデータの原動力は、積極的な海外M&Aにありますが、日本の会計基準の下では「のれんの償却による費用負担」が重しとなっていました。ただ、IFRSへ移行すればその重しが外れるため、更なる事業・売上の拡大が期待されます。

なお、日本電信電話(NTT)及びNTTドコモについては、NY証券取引所に上場し、米国SEC基準で決算をしていますので、IFRS同様、のれんの償却はありません。しかし、IFRS移行を機に、NTTとNTTドコモは、NY証券取引所の上場を廃止すると発表しています。国内証券市場の国際化の進展とともに、日本の法令及び会計基準等が改正されたため、上場を維持する意義が薄れたようです。

NTTグループにとって「のれんの償却・非償却」自体はそれほど問題ではなく、会計基準の変更の裏で「体質強化」や「海外M&A戦略の拡大」につなげようとする狙いがあると推測されます。

 

国内市場が成熟期を迎え、収益拡大に陰りがみえてきている今、海外市場拡大はNTTグループにとって最重要課題とみられます。IFRS導入を機に、同社は海外M&A戦略を加速させるのでしょう。

海外戦略を強化するという自社のビジョンに沿い、会計基準を戦略的に変更する、そうした企業は今後も増えるでしょう。

 

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