変化に賭けるパナソニック(2)(Vol.384)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

外部人材の招聘、M&A、社外取締役の比率の見直しなど、パナソニックは抜本的な改革に向けた動きを加速させています。

今回のビジネスEYEでは、「変化に賭けるパナソニック(2)」を考察します。

 

「外部の血」を入れ始めたパナソニック

パナソニックでは、以前はみられなかった外部人材の登用が相次いでいます。
2016年1月に、メリルリンチ日本証券出身の片山栄一氏を執行役員に招聘して、積極的なM&Aに乗り出し、また、日本マイクロソフトで会長を務めていた樋口泰行氏が2017年4月1日から専務役員に就任しています。

樋口氏は、1980年に大阪大学工学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社して12年間勤務した経験を持ちます。いわば古巣に戻った人事ですが、一度退社した人材が取締役会の役員として復帰するのは、生え抜き純血主義だった旧体制のパナソニックでは考えられない人事でした。

 

取締役の人数を大幅に削減

また昨年の株主総会では、経営判断の迅速化と透明性の向上のために、社外取締役の比率を3分の1以上に引き上げる議案などが承認されました。従来パナソニックでは、専務以上を代表取締役として全員が代表権を持っていましたが、機能や役割などに応じた形にするよう制度変更し、代表取締役を4人にまで減らしました。

樋口氏は、この4人のうちの1人となり、パナソニックの経営に参画することになります。かつて、小売大手のダイエーの社長として、その再建に尽力したこともありましたが、従業員数で約2千人の日本マイクロソフトの経営トップから、全世界に27万人超の従業員をかかえる企業への転身は、異例です。樋口氏に対する期待が非常に大きいことが伺われます。

 

樋口氏が取り組む「風土改革」

パナソニックは2013年以降、下記の4カンパニー制で構成されています。

【パナソニックの4カンパニー制】
「家電」:アプライアンス(AP)社
「住宅」:エコソリューションズ(ES)社
「B2B」:コネクティッドソリューションズ(CNS)社
「車載」:オートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社

樋口氏は専務役員に就任すると同時に「コネクティッドソリューションズ(CNS)社」の社長にも就任しました。そしてまず取り組んだのは、風土改革のための本社移転です。およそ半年間で、大阪・門真市から東京・汐留エリアへ移転を行うと、本社来訪者数は以前の2.7倍に増え、営業上大きな成果を出すことができたそうです。
CNS社は「B2B」ビジネスが主であり、最新技術とIoTを提案することから、本社を東京に移転したことで顧客との距離も縮まり、商談も進んだようです。
また、社内文化も変えることが必要であると、樋口氏は社内コミュニケーションツールの見直しにも着手しました。メッセンジャーなどのITツールの利用を呼び掛けるとともに、定期的なモニタリングの結果、昨年4月には20%に過ぎなかった利用率が、3ヵ月で利用率が98%を上回ったそうです。その結果、会議を待たずとも、立ち話や業務用のチャットツールにより、スピーディーに意思決定ができるように変化が起きました。
(参考:週刊ダイヤモンド/2018.7.14号)

 

M&A戦略で「海外企業」も取り込む

パナソニックは生え抜き社員だけではなく、異質、異色な人材を抜擢して、変化を促しているわけですが、その意味ではM&Aも有効です。買収によって得た海外企業のノウハウや人材、ブランドを維持することで、企業文化が少しずつ変容していくためです。パナソニックは、2018年度までに1兆円の戦略予算を投資する積極的なM&Aに乗り出しています。

【パナソニックの2017年の主なM&A海外案件】
(1月)産業用レーザーメーカー、テラダイオード社の全株式を取得
(3月)システムインテグレーターDATA COLLECTION SYSTEMS を子会社化
(3月)スペインの自動車部品・システム等のメーカー、フィコサ社を連結子会社化

社外取締役比率の引き上げ、優秀な人材の招聘、海外企業の取り込み。そうした「外部の血」を取り入れながら、パナソニック内部の変化が促されています。そのような変化がさざ波のように、全社へと広がり、意識改革やイノベーションの源泉となる人材の活性化などへとつながるのでしょう。

次号のビジネスEYEは、「相続トピックス」をお届けします。

 

 

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