2018.10.11

ビジネスEYE Vol.394


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

平成30年7月6日に成立(同月13日公布)した「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」は、約40年ぶりの大きな見直しということで話題となりました。

改正相続税法には、「配偶者居住権」など新設されたものや、先月お伝えした「自筆証書遺言」など大きく変わったものがあります。

今月は、そのうち「預貯金の仮払い制度」をご紹介します。

預貯金の仮払い制度

◆ 現行制度の問題点

原則として、遺産分割協議が終了するまでは、預貯金を含む相続財産は相続人全員の共有財産となります。

つまり、遺産分割の前に、預貯金の払戻や名義変更ができませんでした。

そのため、葬儀費用・相続人の生活費の支払や被相続人の借入金返済が難しくなってしまい、相続人が一時的に立て替える、または新たに借入れる等の問題が生じました。

 

◆ 改正内容

そこで、相続人の資金不足を解消するために、相続法を改正して遺産分割協議が終わる前でも、金融機関から預貯金を引き出せる2つの「仮払い制度」が改正・創設されました。

 
(1) 家庭裁判所で手続きする方法
家庭裁判所に遺産分割の審判または調停を申し立てたうえで、預貯金の仮払いを申し立てると、家庭裁判所の判断により他の共同相続人の利益を害さない範囲内で仮払いが認められる方法です。

 
(2) 直接、金融機関の窓口で手続きする方法
各相続人が単独で、金融機関へ下記(ア)の金額を払戻し請求ができる方法です。ただし、下記(イ)の金額を上限とします。

(ア)相続開始時の預貯金の額×1/3×仮払いを求める相続人の法定相続分
(イ)法務省令で定められる金額(100~150万円の見込)

 

◆ 各方法のポイント

(1)家庭裁判所で手続きする方法

家庭裁判所の手続きを要するため、コストや時間がかかってしまうデメリットがあります。
しかし、必要な金額について簡単な証明ができれば、申し立て額の範囲内で仮払いを認めてくれる可能性があります。
そのため、借入金の返済や相続人の生活費など、(2)の方法の上限金額以上の金額が必要な場合に適していると考えられます。

 
(2)直接、金融機関の窓口で手続きする方法

直接、金融機関の窓口で手続きできるため、(1)の方法と比べて簡便的かつ短期間で払戻しができる方法です。
しかし、各金融機関で100~150万円(見込)の上限が設けられる予定のため、多額の費用には適しません。
そこで、比較的少額かつ緊急性が高いもの(葬式費用など)を支払うときに活用できます。

なお、どちらの方法でも、仮払いされた預貯金は、その相続人が遺産分割(一部分割)により取得したものとみなされます。
そのため、後日、遺産分割のときに実際の相続財産から控除されます。

 

◆ 留意点

確かに、相続法改正により相続人の資金調達がしやすくなります。
しかし、(1)家庭裁判所で手続きする方法では、相続人1人が金融機関からの借入返済のためと偽り、口座残高の全てを払い戻してしまう可能性があります。
その場合に、他の相続人に対しての救済方法をどうするのかが課題となります。

また、比較的時間がかからない(2)直接、金融機関の窓口で手続きする方法でも、法定相続人(数)を証明するために、
相続人等の戸籍謄本を取得する必要があると予想されます。

そうすると、戸籍謄本を取得するのに、最低限の時間が必要です。
そして、葬式費用が必要な場合、通夜やご葬儀の準備で忙しく、わざわざ金融機関で手続きをする時間がないのが現状ですから、
この方法を活用するのが難しくなります。

 
預貯金の仮払い制度は利便性が高いですが、法整備をきちんとしないと、相続争いの火種になる可能性があります。
今後、具体的な運用方法が発表されると思いますので、動向に注目していきたいと思います。

 

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