自動車メーカーの孫請けだった油まみれの鉄工所を型破りな発想で立て直し、多品種単品のアルミ加工メーカーに脱皮させた、HILL TOP株式会社(以下、ヒルトップ)。
創業者のやり方を大きく改め、2代目となる山本昌作氏が掲げた新しいやり方は、職人のカンや経験を数値化し、「人にしかできないこと」以外は全て捨てるという大胆なものでした。
今回のビジネスEYEでは、下記の4点についてご紹介いたします。
(1) 職人のカンと経験を数値化する
(2) 24時間無人でも稼働するヒルトップ・システム
(3) ディズニー、NASA、Uberも顧客
(4) 後継者がいないための廃業が増加中
職人のカンと経験を数値化する
ヒルトップの前身は、山本氏の父が創業した「山本精工所」でした。山本氏が入社した頃、受注する仕事の8割は、自動車の部品加工であり、重労働の割にはなかなか利益がでない厳しい仕事でした。
父親が苦労する姿をみていた山本氏は、家業を継ぐにあたり8割あった自動車部品の仕事の全てを辞める決心しました。もちろん、反対意見を説得した上での大胆な改革でした。
そしてルーティン作業のムダを徹底して排除しようと、職人の技術やノウハウをデータベース化し定量化を試みました。つまり、データベース化を進め、加工そのもののルーティン作業は機械にさせ、人は知的作業に集中するという、画期的なものでした。
ヒルトップは鉄工所でありながら、下記の方針を掲げたそうです。
「量産ものは、やらない」
「ルーティン作業は、やらない」
「職人は、つくらない」
24時間無人でも稼働するヒルトップ・システム
職人のカンと経験を数値化するというのは、まず、職人それぞれの手法が異なる暗黙知(職人のカンや経験におるノウハウ)を分析することから始まります。
ある製品を削るのに「どの刃物を、どのような順番で、どのような回転数で削るか」といった手法は職人ごとに異なります。それぞれの言い分を戦わせながら、ヒルトップの標準データを導きだし、それを共有することに決めたのです。
そうした職人の技をデータベース化することで、24時間無人でも動く、多品種・単品加工のヒルトップ・システムの完成に至ったのです。
ヒルトップ・システムは、昼間は、デスクで人がプログラムをつくり、人が帰った夜中に、機械に働いてもらうというものです。「人にしかできないこと」以外は全て捨てるという大胆な発想のもと、人はプログラミングや営業といったことに集中できる仕組みを構築したのです。
ディズニー、NASA、Uberも顧客
とはいえ、全てがトントン拍子に進んだわけではなく、リーマン・ショック後の不況時には、受注が冷え込むこともあった上、山本氏は鉄工所の火災で1か月間意識を失うなどの困難にも見舞われました。
それでもヒルトップは大胆に機械に仕事を任せることで、納期の短縮はもちろん、多品種小ロット生産への対応ができる体制を構築することができたのです。
こうして、山本氏は、「つくるもの」「つくりかた」の変革に取り組んだ結果、収益構造は大幅改善し、利益率は「20~25%」までアップしたそうです。一般的に、鉄工所の利益率は「3~8%」ですから、驚くべき数字でしょう。この10年間、売上、社員数、取引社数ともに右肩上がりです。
取引先は2018年度末で世界中に3,000社超になる見通しです。中には、東証一部上場のスーパーゼネコンから、ウォルト・ディズニー・カンパニー、NASA(アメリカ航空宇宙局)、自動車配車アプリ「Uber」など、世界トップ企業も含まれるそうです。
山本氏は、「製造業の最終目的は『ものをつくること』ではありません。これからの製造業は、ものづくりからサービス業に変わっていかなければならない」と述べています。
(参考:『ディズニー、NASAが認めた 遊ぶ鉄工所』/山本昌作 著/ダイヤモンド社)
ヒルトップは、第4次産業革命が進行するなかで、中小企業がいかに生きていくべきかを提示するものであります。
2代目となる後継者が、ビジョンを打ち出し、会社を生き返らせたのです。とはいえ、こうした会社はごく一部なのかもしれません。
後継者がいないための廃業が増加中
中小企業庁によると、日本企業の3社に1社、127万社が2025年に、廃業危機を迎えるとの見方を示しています。6割以上の経営者が70歳を超え、半数の企業で後継者が不在となっています。
事業がジリ貧になっているわけではなく、後を継ぐ者がいないために、惜しまれつつ廃業を決める中小企業の経営者は少なくないようです。環境変化に応じて、企業に新陳代謝が必要なことは言うまでもありませんが、将来有望な企業までもが廃業に追い込まれるのは看過できない問題でしょう。
事業承継は、親族内の問題であるという意識や、外部に相談しにくい等の内面的な理由もある上、今、取りかかっている仕事への対応に精一杯で、事業承継を顧みる余裕がない等の理由によるところが大きいものと考えられます。
経営者に定年はないものの、いつか必ず事業承継を迎える日が来ることから、早めに事業承継の検討に取り組むことが重要と言えるでしょう。
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