東証1部再編の衝撃-上場基準厳格化で降格企業が続出する!-(Vol.413)


昨年10月29日、日本取引所グループは、傘下の東京証券取引所(東証)における市場区分の見直しに着手することを発表しました。

2020年4月に新たな区分へ移行するために、上場基準を厳格化することが検討され、移行により、1部上場企業の中から7割が降格するとも言われています。降格した企業を待つのは、「一流企業」としてのブランドイメージ失墜という地獄かもしれません。

今回の【ビジネスEYE】では、「新1部」ルール予想を見ていきましょう。
(参考:週刊東洋経済6843号/2019年3月2日)

 

(1)「1部ブランド」の価値低下

東証は、1部/2部/ジャスダック/マザーズという4つの株式市場を運営しています。

その頂点である1部は2126社で構成されており、4つの市場合計約3600社の6割にも上ります。海外市場と比較すると、米ナスダックの「グローバル・セレクト」が1400社強、ロンドンの「プレミアム」が500社であり、日本の多さが際立っています。それを1023社に圧縮して、3つの市場にするのが今回の再編の目玉です。

日本の場合、「1部=一流企業」というイメージが強いですが、国内外を代表する会社が2000社以上あるのかといえば、現実はそうではありません。トヨタ自動車の時価総額(株価×発行済み株式総数)は約20兆円、小さいところでは数十億円と、トヨタの数千分の1しかなく、同じ基準で上場しているとは言い難いです。

大口投資家は、時価総額300億円前後を目安にしていますが、その半数が500億円以下となる1部は、「小粒な企業だらけで投資できない」現状に甘んじています。

上場は本来、資金調達を目的とするものであり、一流企業になったことに対する「ご褒美」ではありません。しかしながら、資金が集まらないのでは「1部ブランド」も名ばかりです。東証も再編の道を選ぶしかなかったと言えるでしょう。

 

(2)再編案は3つ

1部と2部の区分再編を中心に、この3月末にも方向性が示されると報じられています。

時価総額基準の引き上げ「500億~1000億円の時価総額基準」

現行は20億円以上が条件で、1部に上がれば実質的に上場を維持できる仕組みです。今回の再編では、2020年1~3月の3か月間平均の時価総額を基準にすると言われています。仮に500億円が基準になると、過半数が降格することとなります。

社外取締役比率基準導入「取締役総数に対する社外比率3分の1以上」

東証は昨年6月にこの基準を目標として公表しましたが、実際に導入した場合、全体の42%(1218社)だけでなく、時価総額1兆円以上の企業も複数降格することとなり、東証株価指数(TOPIX)、すなわち日本市場全体の相場が動くことになります。そのため即導入の可能性は低いかもしれません。

親子上場の制限

株式の持ち合いで安定株主を作る経済システムを長く続けてきた日本では親子上場が多いです。株主の平等よりも経営の安定を歓迎してきた結果といえるでしょう。しかしながら、子会社では少数株主が保護されなくなり、不特定多数の少数株主が想定される上場企業の企業統治として相応しくないのも事実です。親子上場をしている企業は138社で、割合としては高くありませんが、時価総額1兆円を超えるNTTドコモ、ソフトバンク、ゆうちょ銀行なども含まれるため、これらを外すとなると、TOPIXへの影響は大きいものとなります。やはり即導入の可能性は低いでしょう。

 
今回の市場再編により「1部ブランド」での安住が終わりを告げようとしています。迫り来る新基準にどれだけの企業が対応できるのでしょうか。

「新1部」の価値は計り知れないほど高いものとなりますが、降格したら当面は新2部でよいと諦めるのか、さもなくば買収により時価総額を上げるのか、それも一つの手として非常に有効なのではないでしょうか。

  

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