働き方改革法への具体的対策とは?(Vol.415)


来月から順次適用開始される「働き方改革法」。
会社の規模によって、各項目の開始時期は異なりますが、法改正に対応した労務管理ができるよう準備を進めていく必要があります。

今回の【ビジネスEYE】では、働き方改革法に関する具体的対策、その優先順位について考察していきましょう。
(参考:税理士新聞 第1621号/2019年3月5日)

 

(1)優先順位が高いのはこの2項目!

「働き方改革法」と一口に言っても、今回改正となったのは労働基準法、労働安全衛生法など、労働関連法8種類です。

時間外労働の上限規制の見直しや勤務間インターバル制度の促進、「同一労働・同一賃金の原則」の適用、「高度プロフェッショナル制度」の創設など、非常に厳しい内容の改正となっています。
(主な内容と適用事業所の規模については、こちら→【厚生労働省:働き方改革関連法の主な内容と施行時期(PDF)】

規模にかかわらず、会社として最も優先順位を上げて具体的な対策を進めなければならないのが、「5日間の有給休暇取得義務化」と「労働時間の客観的把握義務化」です。

「5日間の有給休暇取得義務化」

今回の改正で最も世間の注目を集めたのが、「5日間の有給休暇取得義務化」でしょう。
これまでは、企業には付与の義務があるものの、取得は労働者本人の判断に任されてきました。
 
それゆえか取得率は日本の全国平均で51%に留まり、世界19か国を対象とした調査でも、タイ、アメリカと並んで最下位という結果になっています。国の目標は、有給「消化」を義務化することにより取得率を70%まで引き上げることです。
 
会社は10日以上の有給休暇を付与されている労働者に対して、必ず5日以上消化させなければならなくなります。
フルタイムでなくとも、下記に該当すれば対象となるので、特に注意が必要です。
◆週30時間以上勤務している
◆週5日以上勤務している
◆年間217日以上勤務している
◆入社後3年半以上経過していて週4日(または年間169日~216日)勤務している
◆入社後5年半以上経過していて週3日(または年間121日~168日)勤務している
 
会社のほうで主体的に業務を調整し、休める日に休んでもらうというコントロールも取得促進には有効です。また、1日丸々休むことは難しくても半日ずつなら何とかなるということであれば、半休を積み上げることによって5日付与を実現することも可能でしょう。

「労働時間の客観的把握義務化」

「労働時間」は、過去の裁判例等から、「客観的にみて、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれた時間」と定義されるのが一般的です。
例えば、業務に関する事前準備や後片付けなども業務に必要な時間は労働時間とみなされ、勤務時間として把握する義務があります。また、会社によっては未対応の場合も多いとされてきた管理監督者の時間管理も追加適用されます。
 
2017年度、時間外労働などで割増賃金を支払っていない会社に対し、厚生労働省が是正勧告をしたのは1870社にのぼり、前年より140%の伸び率となりました。こういった状況を見直すため、中小企業にも「60時間を超えた時間外労働の割増賃金率」を引き上げを適用するなど、厳しい改正内容が盛り込まれることとなったのです。

もし、従業員から未払い残業代を請求されたら、請求のベースになるのが、この「労働時間」です。
裁判では、個人の手帳に書き込んだ手書きのメモが証拠として採用されるなど、労働者保護のスタンスがかなり強く出るケースもあったと聞きます。その場合、会社は明確に否定できるだけのデータを持って、守りを固める必要があるのです。

厚生労働省のガイドラインでは、タイムカードやICカード、パソコンのログ(利用状況やデータ通信など履歴や情報の記録)での管理を推奨していますので、リアルタイムに労働時間を可視化する管理ソフトの導入を検討することもひとつでしょう。

 

(2)働き方改革の本来の目的

働き方改革は、アベノミクス成功の鍵を握るファクターだと言われてきました。
少子高齢化の進行で労働力人口の減少が予想される中、限られた人材をフル活用して生産性を高め、経済成長に発展させていく。本来の目的はここにあるため、見直しが目的化してしまっては元も子もありません。

業種によっては、具体的な対策のハードルが高く感じられることもあるかと思いますが、間際に迫った適用開始の前では「聖域なき改革」を行うべきではないでしょうか。

  

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