日本経済新聞社がまとめた2018年度の飲食業調査で、2019年度中に53%の企業が値上げを計画していると報じられました。
昨年度も57%が値上げに踏み切っており、人件費や原材料の上昇がメニューに反映された結果なのでしょうが、それでも経常利益が4年ぶりに前年度を下回るなど、コスト高を吸収し切れていない状況です。値上げは客離れを招き、加えて今年度は消費税率改定を控え節約志向も高まるため、価格と客数の確保はより難しい舵取りとなることでしょう。
97年をピークに縮小に転じた飲食業界。体制を整え、次のステップで飛躍するチャンスを掴む方法とは-
今回の【ビジネスEYE】では、飲食業界を例に、縮小市場での成長戦略を見ていきましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年5月22日)
(1)飲食業界のスパイラルにヒントが
97年をピークに縮小に転じた飲食業界。中身は3~4年ごとに増収減益と減収増益を繰り返すパターンが定着しています。
言うまでもなく、健全な会社経営というのは、増収増益を続けることです。
しかし、業界全体が縮小傾向にある中では、減収増益モデルに成長戦略のヒントがあると筆者は考えます。
全国に約200店舗を構えるロイヤルホスト(ロイヤルホールディングス株式会社)。2000年以降には業績悪化、役員人事をめぐる内紛などが取り沙汰されましたが、2010年3月に新体制となって以来効率化、多角化を進めてきました。事業ポートフォリオを変えることで、同年9月には売上高が49ヵ月ぶりに対前年同月比を上回り、年度ベースでは2012年12月期に16年ぶりに前年比を上回るという再生を遂げました。
多角化を進めた菊池唯夫代表取締役会長は、当時を振り返って、このように話しています。
「どんな手を打てばよいのかというヒントは、実は市場の縮小そのもののなかにあった。市場の縮小には逆らえないが、コストをかけて新しい業態を開発しようとするのではなく、ロイヤルホストの既存店を見直し、そちらに資金を投じればよいのではないかという仮説を立てた」
既存店の強化として、外装や内装、さらに厨房機器などのハードを新装。同時に、ロイヤルホストの強みである料理担当者の力を活かし、日本各地の美味しい食材を店舗で調理をして提供する料理フェアや品質の高い食材を使ったメニューを提供。豊かな食事の時間を過ごしていただけるように教育・訓練を行う-
いずれもコストがかさむ取り組みですが、新規出店よりはコストを抑制できます。
お店で過ごす時間に見合った価値を提供することに重きを置いた効率化が、仮説を立証することになったのです。
最近では吉野家ホールディングスでも、既存店への投資に積極的になっています。
料理を席まで自分で運ぶセルフ型の店舗に切り替えるため、国内店舗の1割にあたる209店舗を改装。従来と比べ、従業員の歩数を1日あたり3割減らし、店舗当たりの労働時間を4時間削減することに成功したそうです。
(2)実際には…
ロイヤルホールディングスの軌跡については、稀な成功例と言えるでしょう。
事実、飲食業界全体では、減収増益から増収増益に転じられず、増収減益へ逆戻りし、いつまでも負のスパイラルに留まることのほうが多いようです。
減収増益モデルは決して持続性があるものではありません。
この成功に甘んじず、レストラン事業でも業態を増やす、機内食、ホテル、食品製造、社食などの事業にも手を広げるなどして、増収増益へのチャンスを掴んだロイヤルホールディングスにはまだ学ぶ点があります。
2017年には24時間営業を廃止。減少した売上をホテル事業、機内食事業で補完して、さらなる改革を断行。
労働環境を改善したロイヤルホストでは、リピーターが増えるような料理やサービスの充実を更に進める一方で、不採算店舗は「カウボーイ家族」に衣替えし、中核ブランドとしてのロイヤルホストを守る方策を取っています。
「あのロイヤルホストならば安心で美味しいものを出してくれる」というブランド力を再構築し、他事業での競争力につなげたい考えのようです。
多角化の強みを存分に生かした戦略から、今後も目が離せませんね。
成熟し縮小しつつある市場を多数かかえている日本の企業は今、次により効率よい利益を上げるために、体制を整える局面にきています。
できるだけ無駄を省いて、強みを持つ事業分野に経営資源を集中させる。
持続性はないものの「減収増益」は、次のステップに向かうための力を蓄えている状態であると考えられます。
これを評価し、日本企業の今後の成長を大いに期待していきたいところです。
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