企業の事例からみる働き方改革と喫煙対策(Vol.429)


働き方改革と共に、健康経営の一環として「喫煙対策」に取り組む企業が増加しています。

労働人口の減少が進む日本において、1人あたりの労働生産性向上が重要な課題となっていることはご存じのことと思います。

そうした中で注目を集めているのが、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実施する「健康経営」です。
企業が従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上をもたらし、結果的に業績向上や企業価値向上に繋がることと期待されています。

オフィスでふと気づくと隣の人が席を外して戻ってこない、戻ってくると微かに煙草のにおいが漂ってくる―

従業員が喫煙者の場合、体調への悪影響から通常通り仕事をこなせなかったり、欠勤したりすることによる「生産性損失時間」は、なんと年間130時間にも及ぶといいます。日にすると約17日も無駄になっていると考えると、健康経営以前に、経営者として非常に耳の痛い話に他なりません。

今回の【ビジネスEYE】では、喫煙を抑える取り組んでいる企業の事例をみていきましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年5月23日)

(1)非喫煙者より52時間も無駄にしている!

喫煙者と非喫煙者の健康状況が仕事の生産性に及ぼす影響について、アメリカの大手化学品メーカー、ダウ・ケミカル社に勤める社員1万人を対象に、疾病と仕事の生産性の関係を調べる調査が行われました。

その調査結果から、禁煙者が何らかの病気によって欠勤したり、体調不良等で仕事の生産性が低下したりすることで損なわれる年間労働時間数が平均78時間であったこと対し、喫煙者はその倍近くにあたる約130時間にも及ぶことが判明しました。

こうした従業員の欠勤や生産性低下に伴う企業の経済的損失額を計算したところ禁煙者一人当たり年間1,156ドル、1ドル120円で日本円換算した場合約30万円、一方喫煙者は年間4,430ドル、日本円で約53万円もの損失という驚愕の結果がでていました。
 
つまり、喫煙者は禁煙者の約1.8倍もの生産性損失時間を招いており、禁煙者の約1.8倍もの経済的損失を企業側に与えていることになります。禁煙者であっても病気になれば欠勤してしまう場合もありますし、欠勤にならなくとも例えばアレルギー症状や腰痛や頭痛といった病を患っていれば仕事の効率も低下します。

従って、従業員の健康管理は実は企業経営という側面からも極めて大切であることが改めて示された調査結果とも言えますが、とりわけ企業側にとって大きな経済的ダメージとなっていたのが「喫煙者」だった訳です。それだけに、企業が職場環境の禁煙化を推進することは経済合理性があるどころか、早急に改善しなければならない経営的課題であったといっても過言ではありません。

(2)喫煙者は採らない―採用でも優位に立てるか

これまでも、禁煙外来への通院費を補助するなどの対策は多くの企業で進められてきました。

2020年に受動喫煙を防ぐための改正健康増進法が全面施行されるのを背景に、社内で喫煙を認めない例も増えてきていますが、ファイザー日本法人では、たばこを吸う人を採用しないことを決めたと報じられました。2019年中には社内の喫煙者をいなくする目標を立て、2020年入社の人から喫煙者を採用しないスケジュールで動いているといいます。

厚生労働省の統計では、現在習慣的に喫煙している人の割合は、17.7%。
男女別にみると男性 29.4%、女性 7.2%で、2008年以降の10年間では、10%程度減少しています。
年代別でいうと、30~40歳代男性が他の年代よりも喫煙している割合が高く、
約4割が習慣的に喫煙しているとの結果でした。

上記結果を見るに、若い世代には受動喫煙を嫌う人も多く、人手不足の今、
禁煙の方針を強く出すことで採用活動を有利に進めることが狙いだそうです。

ソフトバンクグループでも、2020年10月の新社屋への移転を機に完全禁煙を目指しています。

2019年04月 プレミアムフライデー(毎月最終金曜日)の就業時間中の喫煙を禁止
2019年10月 上記に加えて、定時退社日の毎週水曜日の就業時間中の喫煙を禁止

就業時間中の外出時にも煙草を吸うことは出来ないそうです。

賛否両論ある全面禁煙ですが、大手上場企業の対応によって、さらに加速化するのではないかと世間では受け止められているようです。
働き方改革のツールをうまく使いながら、段階的に喫煙率を下げていくプランは、ソフトランディングながらも効果的な印象を受けました。

働き方の見直しやイノベーションによる生産性向上だけでなく、従業員の健康管理にも本気で取り組むことも必要な時代になってきました。
狙いを明確にして、まずは経営者として力強いメッセージを発信することが必要なのではないでしょうか。

 
 

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