近年ようやく国内でも脚光を浴びてきたオンライン融資。
オンライン融資(オンラインレンディング)とは、これまで煩雑だった融資を、申込みから審査まで、すべてオンラインで簡単に完結できるサービスのことです。
構造としてはネットショッピングに近いものではないでしょうか。アマゾンや楽天など、ネットで商品を購入するのは当たり前の時代です。ビジネスの領域においても物品の売買がネットで行われる中で、金融業界だけが未だ旧態依然なのは一目瞭然でした。
金融機関では、預金から融資、決済まで一気通貫で顧客に提供する必要があるため、全てを安定的に成立させるべく時間がかかってしまうのが難点でした。成立までに経営危機に陥る企業も少なくなかったでしょう。
しかしながら、今話題のキャッシュレス決済や送金の分野を発展させてきた新興フィンテック企業が「融資」や「決済」といった銀行業務の一部を切り取り、一つの領域に絞り込むことで徹底的に利便性を高めることを可能にしました。
これまで取りこぼされてきた企業のニーズに見合うサービスを提供できる環境が整ってきたと言えるでしょう。
海外では、元国営企業への融資しか存在していなかった中国での市場が約25.5兆円、リーマンショックの影響で中小企業への融資に消極的だったアメリカで約3.4兆円と、需要が急成長しています。日本では現在400億円程度の規模であるため、今後の成長が期待されます。
今回の【ビジネスEYE】では、オンライン融資元年と題して、今後の展望をお話ししていきましょう。
(参考:日本経済新聞/2019年6月25日)
(1)日本国内の勢力図
オンライン融資の分野で日本市場を主導しているのは、新興フィンテック企業です。特に、企業の財務データを保有する会計ソフト企業がメガバンクの事業領域に攻め込んでいます。既存の金融機関と顧客との溝を埋め、「痒い所に手が届く」ようなサービスを生み出し、注目されているわけです。
複数の金融機関の口座やカード会社などとシステムを連携し、企業間決済や財務情報といったデータを、会計ソフトのAI(人工知能)がリアルタイムに分析。3か月先の残高と資金繰りを予測し、事前に借入可能額や金利などの条件が試算できます。
借り手の日々の入出金や発注元まで幅広くとらえ、企業の信用度を多面的に評価できるのも強みです。
貸倒れの危険性までも予測して、延滞や貸倒れの増加をコントロールできる技術も視野に入っていると言います。
ICT(情報通信技術)によって限りなく利便性を高めたところに、会計ソフト企業がメガバンクの一歩先を行くポイントがあったのだと思います。
また、金融機関では、融資の実行判断は人が行っていたため、多くの資料を読み込み、融資の対象者に話を聞きながら、アナログなプロセスを辿っていました。大変時間のかかる作業です。
一方、オンライン融資では収集したデータとAIを活用し、人が行っていた判断をシステムが代行するので、申込みから実行までのコストも時間も大幅に短縮できるようになったそうです。
中小企業においては、短期の資金需要が発生した場合、法人として無担保・代表者保証なしで手軽に借りられることも魅力の1つでしょう。まだ銀行とは密な関係が築けていない中小企業や、事業を始めたばかりのスタートアップなど、創業5年目くらいまでのアーリーステージにある企業に適したサービスです。
(2)オンライン融資のデメリットは?
1つは、無担保・代表者保証なしであるがゆえに、金融機関の融資よりも金利が高めに設定されていることです。
これは利便性とトレードオフになる部分ですが、長期的には、金融機関も同様のサービス提供に力を入れると予想されるため、その場合は金利も下がってきます。
プロセスがデジタル化されると、セキュリティ面での心配を挙げる向きもあります。
しかし、従来のアナログ的な融資プロセスでも、紙の資料を紛失してしまうリスクは消えません。もちろん、セキュリティリスクについてはオンライン融資もゼロではありませんが、どちらがより危険か、現状明言は難しいのではないでしょうか。
7月13日~16日にATMやネットバンキングを停止して新システムに移行したみずほフィナンシャルグループでも、スマートフォンと直結しやすい仕組みなどデジタル化への取り組みはこれから検討する段階であり、まだまだ課題は多い状況です。
慎重で腰が重いとされるメガバンクをはじめとする金融機関の背中を新興フィンテック企業が押し、市場拡大への準備は整ってきました。
市場が拡大することで、金利が下がり、より利用者が増えれば、雇用悪化、販売価格抑制、仕入単価上昇の三重苦にあえぐ中小企業の救世主となれるかもしれません。
利便性が高いことやスピード感のある融資という、これまでとは異なる価値が、中小企業、ひいては日本経済に光明をもたらしてくれることを期待したいですね。
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