2019年6月に、教育関連事業を手掛ける「中央出版」(名古屋市名東区)の創業者の相続に関し、遺族が名古屋国税局から約130億円の申告漏れを指摘されました。
2014年に死去した創業者の長男(同社役員)が相続した、中央出版ホールディングスの株式評価を巡って、株式の評価額が不当に安いと認定されたためです。
長男が処分を不服として再調査請求を行ったところ、約30億円分の申告漏れは取り消されましたが、それでも多額の追徴税額も残ったため、現在も係争中となっています。
自社株式の評価額を下げるのは、相続税対策において重要なポイントになりますが、非上場株式の場合、客観的な市場価値がないこともあって、国との争いになりやすいとの意見もあります。
今回の【ビジネスEYE】では、上記事例をもとに是認と否認の境界線を探ってみましょう。
(参考:納税通信/2019年7月15日)
(1)取引相場のない株式の評価方法
相続税法では、未上場株式のように時価がわからない株式は「財産評価基本通達」に基づいて評価をします。今回長男は、事業内容が似ている上場企業の株価などを参考に、類似業種比準価額方式によって株価を算出して、1株当たり18円と評価して相続税を申告しました。
(2)伝家の宝刀といわれる「総則6項」
しかし、名古屋国税局は過去の同社株の取引価格などから「通達以外の方法によって価値を算定すべき『特別な事情』がある」と判断して、第三者機関の鑑定に基づき、約3倍の1株当たり55円と評価し、当初申告の差額として約130億円の申告漏れを指摘しました。
この指摘は、「財産評価基本通達第1章総則6項」を適用したと考えられています。総則6項とは、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」というものです。つまり、ルールに従って評価したにも関わらず、国税局から「著しく不適当」とみなされると、その評価額が覆されることになるのです。
(3)特別な事情とは
どのような事情が『特別な事情』だと判断されるのか、その境界線を定義することは難しいですが、例えば、何らかの理由で客観的な売買価値が明らかになっていて、それが通達を基に計算した株価に比べて著しく乖離していると、本件のように総則6項が適用され、申告漏れと指摘される可能性があります。このほか、持株会社や不動産管理会社に資産を移して相続税対策が取られていると国税から否認されるリスクが高くなると言われています。
持株会社などは、設立年数など一定の要件に気を付ける必要がありますが、株価が下がるメリットがあります。例えば、純資産価額方式では、子会社の含み益から法人税等相当額が控除できるなど、直接、事業会社を保有するより株価が下がる効果があるからです。
(4)自社株の評価額をどう減らすか?
株価の対策は、最近では2018年に改正された事業承継税制にも関係してくるので、重要性が増してきました。しかし、自社株式の節税スキームは国税から否認されるリスクを考慮して、専門的な知識と経験を基にしっかりとした対策が必要です。
当グループには、幅広いお客様のサポートを通じて蓄積した高い専門性とノウハウに強みがあります。過去の経験を踏まえつつ、M&Aなどのコンサルティングも取り扱っており、税務以外での株価算定も考慮しながら株式承継を多面的にアドバイスすることが可能です。自社株式の対策や事業承継税制のご利用も含めて、ご相談をお待ちしております。
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