人手不足を原因とする倒産が高水準で推移しています。
2019年1~7月に累計200件を超え、通年では過去最高だった2018年を上回る可能性があると言われています。
有効求人倍率が約45年ぶりの水準で推移する中、介護など労働集約型のサービス業や建設業などの中小企業が人手を確保できていない状況です。従業員の退職もあり廃業に追い込まれている企業が急増しています。10月から引き上げられた最低賃金もまた、経営の重荷になることは必至です。
(1)人手不足の現状
民間信用調査会社の東京商工リサーチによると、求人難や従業員の退職など人手不足による倒産が1~7月は227件で、前年同期と同じペースとなっています。
18年は387件で、集計を始めた13年以降、年間ベースで人手不足に関連した倒産が最も多かった年でした。
このペースで推移すると、今年は年間ベースで過去最多を塗り替える可能性もありそうです。
件数で見てみると「後継者難」型が最も多くなっています。
代表者や幹部役員の死亡、引退などを原因とするもので134件。
前年同期比では24%と減少傾向です。
今年最も目立っているのは「求人難」など雇用情勢を背景とした倒産の増加です。
産業別では接客対応を中心とするサービス業で23%増の74件で最多となり、次いで建設業(39件)、製造業(27件)、卸売業(23件)、小売業(21件)と続きます。
特に苦しい状況にあるのが介護サービス業と建設業でしょう。
介護サービス業では、もともと人手が足りないとされてきましたが、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)になる25年にはさらに拍車がかかることになります。
厚生労働省では、25年には、介護業界で働く人材の需要は253万人と予測していますが、現状では215万人程度しか確保できないという予想が強まっており、なんと約38万人の不足が見込まれているのです。
建設業では、20年のオリンピック開催に向けての建設ラッシュで、人手が足りず稼働率が低下しているようです。
自然災害後の復興もあり、慢性的な不足状態に陥っています。
ハードな業務のイメージから、若年層が定着せずパフォーマンスが低下。
人材は高齢者が中心となり、業界全体が衰退する危機を迎えていると言えるでしょう。
切り口を変えてみると、要因別で増加率が最も高かったのは「従業員退職」型です。
中核社員の転職などで事業継続に支障が生じたケースを意味しており、18年の2.2倍、25件に達しました。
従業員の確保が困難で事業継続に支障が生じた「求人難」型は2.1倍の51件、賃金などの上昇により収益が悪化した「人件費高騰」型は21%増の17件だったと言います。
18年度の有効求人倍率は1.62倍。
高度経済成長期の1973年度以来、約45年ぶりの水準で推移し、人手不足の深刻さは今後も続いていきそうです。
(2)中小企業の人手不足が社会全体の危機に
各業界も、ただ手をこまねいているだけではありません。
介護業界では外国人労働者を確保して人手不足をしのごうとする動きが活発化しています。
介護労働安定センターの2017年度実態調査では、外国人を受け入れた事業所が5%に。
しかし、焼け石に水の状況で、67%の事業所が人手不足となっています。
政府は特に人手不足が深刻な介護、建設などの業界に対し、魅力ある職場づくりを進める雇用管理改善、ロボットやICTの導入、求人と求職のマッチングなど幅広い支援を手がけています。
建設業界に対しては、国土交通省と共同で人材確保や育成をサポートする方針を示し、2019年度予算に約70の事業を概算要求しています。
しかしながら、仕事のきつさと低賃金はいまだ変わらず、これらの問題の特効薬になるといいにくい政府の支援策がどこまで効果を上げるかについては、疑問視する声も少なくありません。
識者の意見では、
▼社会の基盤をこれまで支えてきたのは中小企業なのに、政府や金融機関の目は大企業に向きすぎているのではないか。
▼中小企業の人手不足を社会全体の危機と受け止め、本気で考えるべきだ。
上記2点が的を射ていると感じます。
人手不足解消への手立てとして、年齢や勤務年数にとらわれない実力主義の徹底や、女性やシニア、外国人労働者が働きやすい環境を作るなど、給与以外の面でも待遇改善も必要となります。
20年4月からは働き方改革のひとつとして「同一労働同一賃金」制度が始まり、21年4月からは中小企業においても、正式に導入されます。
同じ仕事をしていれば正規か非正規かの雇用に関係なく、同じ待遇で報いることになります。
前述の商工リサーチは「人件費の高騰が経営を圧迫する流れが続きそうだ」と指摘しています。
働き方改革は、安倍政権の看板政策です。
しかし、中小企業の人手不足を緩和し、人手不足倒産の続出を防がないことには、社会が立ち行かなくなることになりかねません。
政府は人手不足倒産という形で発せられる危険信号を直視しなければならないでしょう。
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