2019年12月12日に税制改正大綱が公表されました。
昨年と同様にデフレ脱却・経済再生、地方創生の推進を促進し、中長期的に成長していく基盤を作ることを目指した内容となっています。
そのなかで今回不動産オーナーの方々に大きく影響してくるのは主に2点。
◆賃貸住宅購入時の消費税還付スキームの規制
◆海外賃貸不動産の損益通算の規制
いずれも節税対策としてポピュラーなものでしたが、大綱では節税対策抑止を目的として発表されました。
本日の【ビジネスEYE】では、改正後の海外賃貸不動産の節税スキームを踏まえた今後の具体策について探ってみましょう。
1.海外賃貸不動産の節税スキーム
まずは、なぜ海外賃貸不動産を購入すると節税になるのでしょうか。
そのポイントは「資産価値」と「減価償却期間」です。
アメリカの不動産を例にしてみましょう。
アメリカの不動産市場では中古住宅への投資が一般的です。この中古不動産の考え方が日本と違っており、非常に古い木造の建物は日本では資産価値が減少します。一方、アメリカではあまり価値は下がらず、逆に上がる可能性もあります。
よって中古物件であっても比較的高額で取引されることがあるのです。
ここが1つ目のポイントです。
次に、建物には法定耐用年数という「資産の種類」「構造」「用途」によって決まる年数があります。木造住宅の法定耐用年数は22年となり、減価償却期間の基となります。
ここで築22年を超えた木造建物を購入した場合の耐用年数はどうなるかみてみましょう。
この場合簡便法と呼ばれる算出方法を活用します。
法定耐用年数を超えた場合の計算方法は「法定耐用年数×20%」です。
木造住宅の場合、22年×20%=4(小数点以下切り捨て)なので、耐用年数は4年となり、減価償却期間も4年となります。この簡便法は国内の不動産だけではなく海外不動産も適用が可能です。
ここが2つ目のポイントです。
つまり…
減価償却費計上前の純利回りを5%とした場合、毎年500万円が純利益となります。
その一方で減価償却費は1億円を4年で償却するため、年間2,500万円を費用計上することが可能です。
購入から4年間の不動産所得は、
500万円-2,500万円=▲2,000万円の赤字です。
この海外賃貸不動産から生みだされた赤字を、国内不動産や給与など他の黒字の所得と相殺することで、所得金額を抑えることができます。所謂「損益通算」です。
それにより、所得税や住民税を大幅に減らせる―これが、海外賃貸不動産を活用した節税スキームです。
2.改正後の対策は?
今回の税制改正大綱では、2021(令和3)年以降、個人が所有している海外賃貸不動産の所得が赤字となった場合は、減価償却費部分は経費計上できなくなります。つまり、来年以降は損益通算による所得金額の圧縮ができないということです。
では、今この節税スキームを利用している場合、今後どんな具体策を立てればいいのでしょうか。
◎資産管理会社へ売却し保有する◎
今回の改正は個人が対象となっているため、2022(令和4)年になる直前に同族法人へ売却するという方法を検討できます。
売買する際の時価の算定には気をつけなければいけませんが、同じ方法により資産管理会社で減価償却費を計上できますので、解約返戻金額がピークとなった保険商品やオペレーティングリースの出口対策として活用するのもよいかと思います。
◎高利回りの海外不動産を購入、海外収益で損益通算を図る◎
今回の改正で国内所得との損益通算が不可となりますが、他の海外不動産との損益通算は引き続き可能です。海外にて築年数の浅い物件を購入すれば、減価償却費の額も少なく利益も高くなるため海外で赤字相殺可能な範囲で物件を増やしてみてもいいでしょう。
◎損益分岐点を確認し保有と売却の線引きをする◎
5年以内の不動産の売却は「短期譲渡」となり所得税と住民税を併せて約40%の税率で課税されますが、個人の最高税率は55%のため、単に売却してもメリットはあります。
また今回の改正では、減価償却費については損益通算できませんが、売却時に帳簿価額が残っている場合には、その帳簿価額は売却金額からマイナスをしてもいいので、売却益を圧縮することができます。
損益分岐点を確認しながら、収益性の低い物件に関しては売却し、収益性の高い物件は保有するといった物件の線引きをされてはいかがでしょうか。
今回の改正案は、昨年話題となった法人保険と同様、海外賃貸不動産から発生する減価償却費相当額が、恣意性のある節税対策だということが大きく捉えられたために、メスが入った可能性が高いです。今後、不動産は本来の役割である運用商品として所有し、売却を検討する際は、外国為替の増減や不動産市場など、売却すべきタイミングを一層見極めていくことが、ポイントになると思います。
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