テレワークがすっかり定着した感がありますが、この働き方の変化によって「組織」や「日本型雇用」が転換期を迎えると言っても過言ではないでしょう。
私が税務・会計専門メディアで連載しているコラムの最新回では、日本企業の雇用の未来について考えています。
「組織の変貌」を大河ドラマになぞらえ、織田信長が理想とするも「本能寺の変」で実現できなかった組織とは何だったのか?など様々な切り口で推察しています。よろしければぜひご覧ください。
●〇●コラム「会計士 中村亨の経営の羅針盤」-コロナ終息後の日本企業の雇用
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さて、今回の「ビジネスEYE」では、働き方の変化に関連して、ソニーが導入している「新人から給与格差」をつける制度についてご紹介したいと思います。
皆が同じ「ムラ社会」に属するという、日本で一般的なメンバーシップ型の雇用から脱却し、完全実力主義であるジョブ型に舵を切り始めたソニーですが、その先には重い課題も待ち受けています。
(参考:日本経済新聞/2020年4月21日)
■背景にはGAFAとの人材獲得競争
ソニーは2019年の新人社員から、「初任給は横一線でスタート」という平等原則を廃止し、能力や働き方に応じて給与が上がる制度を導入。これにより3カ月の見習い期間後には、新卒でも200万円近い年収差が理論上起こりうることとなりました。
ソニーは過去に、累計約1兆円となる赤字体質の改善を旗印に、完全競争型の賃金制度の導入、全社員の4割を占める管理職のリストラといった大胆な改革を行ってきましたが、この「新人から給与格差をつける」背景には人材獲得競争があります。
米IT大手「GAFA」との人材獲得競争が激しくなる中、今の若者にはソニーブランドが通用しない。優秀な人材を集めるためには、能力の高い人材に会社が向き合う姿勢を見せる必要がある、というのがソニーの考えです。
■「メンバーシップ型」から「ジョブ型」への転換
日本の正社員は終身雇用と年功序列を前提に、職務や勤務地を限定せずに働く「メンバーシップ型」が一般的ですが、初任給に差をつけるソニーの取組は、責任や役割に応じて報酬を変える「ジョブ型」を意識したものです。
ジョブ型の雇用慣行は日本と比較して「欧米型」とも呼ばれますが、雇用契約の出口をどのように設定するのか判然としないことが、促進の難題になっています。
日本の一般的なメンバーシップ型雇用では、企業による解雇を厳しく制限していますが、一方でジョブ型は、高い報酬の代わりに職務を果たしていないと判断すれば解雇事由となりえます。
ソニーの場合は、等級の降格や剥奪はあり得るが解雇に踏み切ることはしない、としています。従来型の雇用関係とバランスを取ることで、ジョブ型への転換による働き方激変の緩和を模索しているのでしょう。
■日本は初任給抑制
メンバーシップ型とジョブ型は「給与水準」が異なることも特徴です。突然の解雇リスクがない分、前者の給与水準は低くなります。
大卒入社1年目の基本給の平均を各国で比較した調査(※)によると、米国が632万円、ドイツが534万円、日本が262万円と大きく差があり、メンバーシップ型が前提の日本はスタート地点の初任給が抑制されている状況が伺えます。しかし、この「薄給」のままでは日本企業は高度人材を獲得することができるのか。
新型コロナが雇用を脅かし、これまでメンバーシップ型の雇用慣行を再評価する動きが出てくる可能性はありますが、リモートワークなどで正社員の働き方も変わるため、「正社員のかたちとは何か」を今一度、深く考える必要があるのではないでしょうか。
※ウイリス・タワーズワトソンの「2019 Starting Salaries Report」より
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