中村 亨の【ビジネスEYE】です。
自社のみならず他社、大学、社会起業家、自治体等が持つ技術やアイデア、サービス、知識、ノウハウ等を組み合わせて革新的な新しい価値を創出することを「オープンイノベーション」と言います。
令和2年度の税制改正では、イノベーションの担い手となるベンチャー企業に対する出資について所得控除を設ける「オープンイノベーション税制」が講じられるなど、国はイノベーションの創出を積極的に推進しようとしていることが分かります。
米国では連日5~7万人ペースで感染者が増加し、日本でも収束の道筋が見えていない新型コロナウイルスの猛威ですが、アフター・コロナの世界で日本企業の飛躍の鍵になるのがオープンイノベーションであるといわれています。
今回のビジネスEYEでは、従来「イノベーションが生まれにくい」と指摘されてきた日本企業の弱点を、オープンイノベーションで払拭する鍵について見てみましょう。
(参考:週刊ダイヤモンド)
■シリコンバレーに進出する日本企業の増加
多くの日本企業の間でオープンイノベーション活動が活発化し、シリコンバレーに進出する企業も増加してきました。2019年9月の調査レポート※では、シリコンバレーを含むベイエリアにイノベーション拠点を持つ企業222社のうち、日系企業は52社と全体の25%を占め、米国(39社)、ドイツ(20社)などを抑えて首位になっています。
シリコンバレーに進出した企業は、企業家向けの共同オフィス「コワーキングスペース」を利用し、製品やサービスのアイデアを外部から募る「アイデアソン」やベンチャー企業の事業提案を募集し賞金を用意する「ピッチイベント」を開催する活動を広げています。
しかしながら、これらの取り組みを漠然と利用しているだけではイノベーションは起こりえません。重要なイノベーションの鍵が「アクセラレーター」と呼ばれる存在です。
※JETRO(日本貿易振興寄稿)ビジネス短信「2019年9月25日発表 Mind the Bridge調査レポート」より
■私利私欲のない支援を行う「アクセラレーター」
アクセラレーターとは、設立間もないスタートアップ企業に、資金投資やノウハウの面でサポートする組織を言います。
似たような仕組みとして「インキュベーター」が知られていますが、期間が予め定められているアクセラレーターと違い、決まったスケジュールで活動しておらず、より若い段階にある会社を対象としてるという違いがあります。
さて、アクセラレーターは起業希望者を広く募集し、応募した中から選ばれた人やグループに少額の資金を投入し、3~6カ月ほどの短期間で起業の第一歩を踏み出させます。このアクセラレータープログラムの最後にはエンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)の前でビジネス提案の発表を行う「デモデー」が開催され、プロのVCが実際に投資を行うか否かの判断を行います。
実績のあるアクセラレーターとして「Yコンビネーター」(YC)や「500スタートアップス」の名前を耳にしたことがある方もいるのではないでしょうか?
いずれも選考が非常に厳しいことで知られていますが実績も高く、YCは1,800社以上に投資し、そのうち192社がエグジット(上場や買収され、事業が成功したこと)、500スタートアップスは1,700社に投資し、そのうち162社がイグジットしています。
これらのアクセラレーターは、起業家たちをサポートするメンターとして参画し、私利私欲のない支援を行ってきました。その支援は、十分な投資リターンを生む原動力となり、さらにその高い実績が実力のある起業家を引き付ける、という好循環を生み出しています。
■アフター・コロナの世界で日本企業の飛躍の鍵になる「オープンイノベーション」
日本企業がオープンイノベーションを本気で推進する覚悟があるのであれば、シリコンバレーに乗り込むだけではなく、一流のアクセラレーターやVCと関係を構築する方法も検討するべきではないでしょうか。
決して簡単とは言えないイノベーションの効率を高めるには、彼らの独特なノウハウや人脈で力強い支援をしてもらうことを真剣に考えていく必要がありそうです。
オープンイノベーション自体は、ひとつの仕組みでしかありません。
しかし、この仕組みを活用することが、従来日本企業が指摘されてきた「“自前主義”にこだわるあまり、イノベーションが生まれにくい」という弱点を払しょくするきっかけになるでしょう。
激変が予想されるアフター・コロナの世界を日本企業が生き残り、飛躍するには、社内外の多様な強みを結集してイノベーションに挑戦できる「オープンイノベーション」が一つの鍵になっていきそうです。
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