減税・生活資金確保の両面で見逃せない”配偶者居住権”とは?(Vol.489)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

自宅の持ち主が亡くなった後の配偶者が、その後も自宅に住み続ける権利を保護するために新設された「配偶者居住権」が、令和2年4月1日以降の相続から施行されています。

この配偶者居住権が新設されたきっかけは、非嫡出子(法律上の婚姻関係がない男女間に生まれた子ども)の相続分が嫡出子と同一となり、前妻の子と遺産分割で揉めた場合に、配偶者の相続分が減ることにより、自宅を手放さなければならない等、生活を脅かされる可能性が出てきたからです。

今回のビジネスEYEでは、配偶者居住権の内容を、有用な活用例を用いてご紹介いたします。

 

■配偶者居住権とは?

被相続人の死亡により、残された配偶者が被相続人の所有する自宅(夫婦共有の建物も含む)に居住し遺産分割等で取得した場合に、所有権を相続しなくても、その建物に住み続けることができる権利のことを言います。

簡単にまとめると、配偶者であれば自宅を「住む権利」と「その他の所有権」に分けて相続することが出来るという事になります。

■有用な活用方法

ではどういった場合に、配偶者居住権が有用になるのでしょうか。
多くのケースは被相続人に再婚歴があり前の妻(夫)との間に子供がいる場合や、婚外子がいる場合が挙げられます。

このような場合、被相続人の配偶者とは疎遠になっていたり、不仲であったりして、当事者間で遺産分割を行うことが難しいことが多い為、相続人それぞれがご自身の相続分を主張することが多いです。

その結果、上述したように配偶者がご自身の財産として、住む場所を確保する必要が出てくるのです。

例を用いて、活用した場合としない場合を見てみましょう。

■配偶者居住権を活用した例
*被相続人:父、相続人:母、長男(前妻の子)

財産内容と状況
*自宅不動産:5,000万円(居住権:2,500万円)
*預金:1,000万円
*長男と母親は疎遠状態で財産は法定相続分で分ける。

<居住権を活用しない場合>
母と長男の法定相続分はそれぞれ2分の1です。
相続財産の合計は6,000万円の為、それぞれの相続分は3,000万円です。

もし配偶者が自宅に住み続けようと思った場合、自宅不動産が5,000万なので差額の
2,000万分は、自身の資産から捻出しなければなりません。
【資金の捻出が出来ない場合には、相続した自宅不動産を売却して支払うことになります。】

<配偶者居住権を活用した場合>
5,000万円の自宅の評価を居住権と所有権とに分けて相続することが可能になります。
上記の例では居住権が2,500万円と評価されており、残りの2,500万円の自宅の権利については
長男が相続します。

法定相続分である3,000万円との差額500万円分の預金も取得することができるので、
【自宅を手放すことなく住み続けることができ、相続後の生活資金も確保することができます。】

このように居住権(住む権利)と所有権を分けて相続する事で、本来不足分を支払う状況であったものが、逆に現金資産についても相続する事ができました。

また、配偶者居住権は「小規模宅地等の特例」が適用可能でき、土地の評価額部分に対して80%の減額を受けることが出来ます。
高い評価のご自宅を相続したとしても全体の財産評価額を下げる事が可能になるのです。

■活用時の注意点
①:登記について
配偶者居住権は、遺産分割などにより相続した場合、不動産の登記がなくても効力自体は発生します。

ただし、所有者が事情を知らない第三者に不動産を譲渡してしまった場合、譲渡を受けた人に対して、配偶者は所有権を有していると対抗することができなくなってしまい、追い出されてしまう可能性もあります。

そのため、住む権利を有しているということを示す為にも不動産の登記をすることをお勧めいたします。

②:居住権の消滅について
配偶者居住権は、配偶者の死亡もしくは設定した期間が満了すると権利が消滅し、その他の所有権を持っている人は100%の所有権を持てるようになります。

この2つの理由により配偶者居住権が消滅し、所有者が100%の所有権を得ても、相続税や贈与税などの税金は発生しません。(※あくまで現行法での解釈であり、今後、法改正で税金がかかるようになる可能性もあります。)

ただし、配偶者が施設に入所し、配偶者居住権を放棄した場合など、相続や期間満了以外の方法で配偶者居住権が無くなり、所有者が100%の所有権を得た場合、所有者に対して贈与税が発生してしまいますので、将来的に配偶者が施設などに入所する場合には注意が必要です。

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なお、配偶者居住権はその評価額の計算が非常に難しく、また有効な活用方法は、家族構成や所有財産によって異なります。

ご自身の家族の場合はどうなのか、ご興味のある方は日本クレアス税理士法人にぜひご相談ください。初回無料にて相続に対するご相談を承っております。

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