中村亨の「ビジネスEYE」です。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて相続税の申告及び納税について、やむを得ない事情がある場合には、個別に申告期限の延長が認められるようになりました。また、同じく納税自体が困難な⽅に対して、納付を猶予する制度も特例的に新設されました。
税務署がこれほどの期限延長や、猶予を行っていることを考えますと、社会に与えた影響がどれほど大きいかがわかりますが、申告・納税が免除になるわけではないことに注意が必要です。
では、納税できる見込みがない場合はどうすればよいのでしょうか。その場合に検討される制度の一つ「相続税の延納」をみてみましょう。
■個別指定による期限延長とは?
新型コロナウイルスの影響によって行動が制限され、申告・納税が本来の期限通りに行えない、あるいは減収した方に対し納税を猶予する新制度ですが、そもそも申告・納税が免除になるわけではありません。
納税猶予に関しては現状の収入減などを理由に1年間の猶予を認められる訳ですが、裏を返せば、その1年で納税資金を確保し、納税しなければいけないということです。
では納税できる見込みがない場合はどうすればよいのでしょうか。その場合に検討される制度のひとつが「相続税の延納制度」です。
担保提供などの一定の条件を満たすことにより、相続税を長期間にわたり分割で納税することができる制度ですが、必ずしも「使いやすい制度」とは言い切れません。
■相続税の延納制度とは?
相続税の延納とは、相続税額が10万円を超える場合に、その納付額を限度として、担保を提供することにより、年賦で納付することができる制度です。この延納期間中は利子税の納付が必要となります。
■延納のポイント
相続税の延納制度は大きく3つのポイントに分けることができます。
(1)納付する相続税額が10万円を超え、現金一括で納付することが難しい
延納制度の適用を受ける場合には、最低10万円以上の納税金額が必要です。また、この10万円は納付をする相続人自身の納付税額が10万円以上である必要がありますので、相続人全員の相続税の合計額が10万円以上であっても適用でないことにも注意が必要です。
(2)自分で払えない金額を限度に延納を申請することができる
次のポイントは納税者本人が払える部分までは延納の金額には入れられない、という条件です。
延納制度はここに注意が必要です。相続予定の財産はもとより、自分の個人資産も納税に充ててもなお支払いができない場合に延納ができるのです。
では納税者の個人の資産をどこまで手許に残しておけるのか?
基本的には、当面3か月分の生活資金のみで、それ以外の資産はすべて納税に充てる必要があります。
しかも納税者本人の生活費は1ヶ月当たり10万円、扶養家族がいる場合は一人当たり1ヶ月4万5千円です。もちろんローンや教育費、医療費や税金などは加味してもらえますが、なかなか厳しい数字ではないでしょうか。
申請にあたっては自分の年収や現在のローン状況、生活費など事細かに書き出す必要がありますので、生活費のほぼ全容を税務署に提示する必要があるという意味では、ハードルが高いかもしれません。
(3)延納申請する金額を満たす価値のある担保の提供が必要
延納をする場合、延納をしようとする金額に見合う担保の提供が必要となります。
また提供できる担保も、国債や有価証券、不動産などの種類の指定があり、さらに売却できる見込みのないものや、係争中のもの、共有持ち分の持ち分のみは不可などの細かな制約があります。
このほかにも細かな条件があり、そういった条件をクリアして初めて延納が認められますが、延納の申請は相続税の申告期限までに、延納申請書と担保提供関係書類を税務署に提出する必要がありますので、スケジュールには注意が必要です。
■せっかく期限内に申請できたとしても…。
申請を期限内にしても、必ずしも承認されるとは限らず、もし万が一承認されなかった場合には納付期限の翌日から却下された日までの期間については利子税がかかります。さらに却下の翌日から完納の日までの期間については延滞税が課税されてしまいます。
相続税が払えなくて延納申請したのにも関わらず、利子税、延滞税を課税されてしまうのでは正直支払いはとても厳しいのではないでしょうか。
延納の申請は、納税の期限を延ばすことが出来る代わりに、厳しいハードルをクリアしなければいけませんので、安易に選択をすることが出来ません。
新型コロナウイルスの終息が見えないうちは、期間延長や納税猶予は続くと思いますが、そもそも申告・納税が免除になるわけではないことや、また相続税の延納も使いやすいとは言い難いことなどを踏まえると、相続が起きる前にコツコツと対策していくことがいかに重要か分かります。
相続が起こる前に、相続税の申告は必要なのか、税金はいくらなのか、有効な対策はないのか、一度見直しをされてみてはいかがでしょうか。
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