2017.06.29

ビジネスEYE Vol.329


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

積極的なM&Aにより、成長軌道を捉えている産業ガスのエア・ウォーター。
長期目標「2020年 売上高1兆円達成」に向け、ダイナミックな挑戦を続けています。
代表取締役会長の豊田氏は、買収は「掛け算」で考えるべきと語っています。

本日のメルマガでは、前回に引き続きエア・ウォーターの多角化戦略を考えます。

■買収は「掛け算」
エア・ウォーター会長兼CEOの豊田氏曰く、『 買収は「掛け算」である 』。

最も重要なのが、相手がカネをかけられる会社かどうか、つまり今後の成長性があるかどうかという点です。
いかにカネをかけずに売上げを増やすかを志向するのが通常の企業買収ですが、私はM&Aをそのような「足し算」では見ていません。
M&Aは一緒になることで価値を高め、さらに飛躍できる「掛け算」であるべきだと考えているからです。
だから、現時点でいくら利益を出していても成長の余地がない会社には手を付けません。
(『日経ビジネス』(2017年3月27日号)の「有訓無訓」より抜粋)

■「タテホ・ショック」を乗り越えて
エア・ウォーターがM&Aによる多角化に乗り出した契機の一つに、「タテホ・ショック」を乗り越えた経験があります。

タテホ・ショックとは、1987年9月にタテホ化学工業の国債先物取引の失敗による巨額損失の発覚に伴い発生した、
日本の債券相場の暴落などを指します。当時、鉄鋼向け炉材用の電融マグネシアのトップメーカーであったタテホ化学工業は、財テク企業としても名を馳せていましたが、1987年6月以降の債券相場の下落で債券投資(債券先物取引)に失敗、その年の9月に286億円に上る巨額損失を出したことが明るみに出て、国内外の株式相場や債券相場が一斉に急落、同社は一気に債務超過に陥りました。

当時の豊田氏は大同酸素の専務を務めていましたが、1988年、タテホ化学工業の立て直しの命を受け、社長として送り込まれました。

再建へと乗り出した豊田氏は、タテホ化学工業の技術力の高さを知る一方で、古い設備を使用し荒涼とした環境で仕事をしている社員を目の当たりにします。そこで、30億円をかけて設備の刷新を行い、企業風土を刷新すべく社員に粘り強く問いかけ、再起を促しました。

この経験を糧に、企業風土を変革させることの重要性を学び、「足し算」ではなく「掛け算」になるM&Aを念頭に、企業買収を繰り返すことになりました。エア・ウォーターは、買収した企業の従業員を人員整理することなく、適切な改善策を軸に収益性の向上につなげています。
問題点を見極め、改善させる力が極めて高いと言えるのでしょう。

■エア・ウォーターのもう一つのビジネスモデル「全天候型経営」
「全天候型経営」とは、エア・ウォーターが安定した収益を目指す独自の経営モデルです。産業系ビジネス(産業ガス、ケミカル)と生活系ビジネス(医療、エネルギー、農業・食品)とに事業構成の最適バランスを志向しながら、経営環境の変動に左右されない事業体制を目指すものです。

(1)産業ガス関連事業・・・29.5%
(2)ケミカル関連事業・・・13.2%
(3)医療関連事業・・・・・18.8%
(4)エネルギー関連事業・・  7.0%
(5)農業・食品関連事業・・13.9%
(6)物流関連事業・・・・・17.6%
※構成比は、「エア・ウォーター アニュアルレポート2016」より

主力事業に捕らわれることなく、時流にのって戦略的に新しい事業を創造し、さらなる企業拡大のための成長ドライバーとして発展させているエア・ウォーター。「全天候型経営」により適切な事業ポートフォリオを形成し、「ねずみの集団経営」を推進することで、「2020年 売上高1兆円達成」を目指しています。

経営環境が劇的に変化する今の時代、エア・ウォーターのような多角化戦略を持つ企業こそが成長を続けられるのかもしれません。
今後も豊田氏の手腕に注目が集まります。

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