経営モデル「ねずみの集団経営」( Vol.328)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

産業ガスを祖業としながらも、積極的なM&Aにより事業の多角化を進めるエア・ウォーター。同社には経営の基本として掲げる独自の経営モデルが2つあります。その一つが冒頭の「ねずみの集団経営」です。

哺乳類で最も繁栄した種と言われる「ねずみ」の特長を模した経営モデル。それぞれの事業集団が環境変化に俊敏に対応し、柔軟に新分野・新規事業を開拓する活力を持ち、こうした中堅企業群を育成し産み出し続けることで、持続的な企業成長を実現しようとするものです。

本日のメルマガでは、エア・ウォーターの多角化戦略を考えてみます。

M&Aで発足したエア・ウォーター

産業ガス業界は、1990年代から2000年代前半にかけて変革期を迎えました。各社とも「規模拡大による収益性改善」を目指し、合従連衡が繰り返されました。エア・ウォーターもこの大きな流れのなかで誕生しました。(産業ガス国内第2位の「大同ほくさん」と同業中堅の「共同酸素」が合併)

業界内での合従連衡が一巡するなか、業界全体が危機的状況を迎えます。製造業の生産拠点が海外へとシフトしたことで、国内産業ガス市場が頭打ちとなったのです。各社とも新たな収益柱を育てるべく、積極的なM&A戦略を推し進めています。

業界最大手の大陽日酸は、海外(主に北米)でのM&Aを数多く手掛けます。一方のエア・ウォーターは、国内での多角化に注力していきます。特に「食品」と「医療」分野でのM&Aを過去10年で50件以上手掛けています。

農業・食品関連事業に進出

2002年、エア・ウォーターは牛肉偽装問題等で解散に追い込まれた雪印食品より北海道工場を買い取り、食品関連事業に進出します。その後の2009年には、農業ビジネスにも本格参入し、野菜生産から加工食品・清涼飲料、そして国内市場への流通・販売をグループ内で展開するに至りました。

直近では、2012年に「相模ハム」、2016年に日清製粉グループの「大山ハム」、菓子の製造販売の「プレシアホールディングス」がグループ入り。2017年3月期の決算短信では、農業・食品関連事業の売上高は前期比129.3%の1,184億4百万円を計上しました。

医療関連事業に進出

エア・ウォーターは、医療用ガスのトップサプライヤーとして、多くの医療機関と取引関係があることから、医療機器・医療サービスなどへ展開していく、トータルサービスを図っています。

2006年に医療機器卸売業の「西村器機」を買収、2007年には川崎重工業の子会社である医療装置・機器メーカーの「川重防災」を完全子会社化しました。その後も攻めの手は緩めず、2010年には手術室・ICU 向け設備工事事業のリーディングカンパニーである「美和医療電機」を買収、2013年には伊藤忠商事とヘルスケア分野において協業を発表しました。

国内事業で拡大を続ける

医療分野におけるM&A戦略を実践した結果、「医療用ガス・病院設備工事・在宅医療・病院サービス・医療機器」の5本の柱がそれぞれ成長軌道を維持しています。ちなみに、2003年3月期に224億円であった医療関連分野の売上高は、直近では1,299億円にまで伸び、産業ガス関連に次ぐ規模へと成長しました。今後も、超高齢社会に向けた施策を積極的に展開するとしています。

積極的なM&Aにより国内事業で拡大を続けるエア・ウォーター。次回は、エア・ウォーターの買収スタンスや、もう一つのビジネスモデルである「全天候型経営」について考えてみたいと思います。

 

中村亨のビジネスEYE メールマガジン
日本クレアス税理士法人|日本クレアス税理士法人│コーポレート・アドバイザーズでは、会計の専門家の視点から、経営者の次の智慧となるような『ヒント』をご提供しています。
> 日本クレアス税理士法人 サイトTOPに戻る <