「働き方改革」の導入状況をもとに、今後の施策を考える(Vol.327)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

労働者不足が深刻化しています。厚生労働省が四半期ごとに実施している「労働経済動向調査(平成 29 年2月)」によると、調査対象産業計で、正社員は23期連続、パートタイム労働者も30期連続で従業員が「不足している」と回答した事業所が多くなっています。産業別では、「医療・福祉」、「運輸業・郵便業」、「建設業」等の企業が特に人材不足を感じているようです。

また、同省が平成29年5月30日に発表した4月の有効求人倍率は1.48倍と、バブル期のピークだった1990年7月を上回り、43年2か月ぶりの高水準を記録しました。

人手不足が長期化・深刻化する今、他の企業はどのような施策を打っているのでしょうか。

本日のメルマガでは、「働き方改革」の導入状況をもとに、今後の施策を考えてみます。

中小企業の「働き方改革」導入・実施状況とは?

商工中金から『中小企業の「働き方改革」に関する調査』(2017年1月調査)の結果が公表されました。この調査結果は、「働き方改革」で議論されている取り組みや制度について中小企業の導入・実施の状況等を調査したものです。(対象:10,002社/有効回答数:4,828社)

調査結果から見えてきたのは、やはり「雇用の不足感」の高まりです。全体的な状況として、雇用が不足しているとする企業が58.7%を占めます。特に、建設業・運輸業・情報通信業・飲食店・宿泊業で、強い雇用の不足感があるようです。

「働き方改革」について注目される取り組みの導入・実施状況

働き方改革実現会議決定(平成29年3月)として発表された取り組みは、主に以下のものです。

注目される12の取り組み

( 1 )長時間労働の管理・抑制に向けた取り組み [ 46.1% ]※
( 2 )OJT・OFF-JT など、社員教育の制度 [ 40.7% ]
( 3 )資格取得・通信教育への補助金など、自己啓発の支援 [ 46.8% ]
( 4 )在宅勤務制度 [ 3.6% ]
( 5 )勤務先や移動中におけるパソコン等を活用した勤務制度 (モバイルワーク) [ 21.2% ]
( 6 )サテライトオフィス勤務制度 [ 1.7% ]
( 7 )副業・兼業の容認 [ 7.6% ]
( 8 )定年延長など、シニア層活用の制度 [ 61.6% ]
( 9 )育児休業や短時間勤務など、子育て世代支援の制度 [ 50.5% ]
(10)妊娠・出産期の女性支援の制度 [ 42.8% ]
(11)介護休業など、介護離職防止の制度 [ 33.0% ]
(12)外国人労働者活用の制度 [ 18.0% ]
※ [ ]の中の数値は、商工中金が『中小企業の「働き方改革」に関する調査』で導き出した各制度の中小企業の導入・実施状況割合です。

上記の取り組みについて、導入・実施の状況を調査したところ、(8)シニア層の活用、(9)子育て世代の支援については、過半数の企業が既に導入・実施。(4)在宅勤務、(6)サテライトオフィス、(7)副業・兼業の容認についての導入・実施は1割未満でした。これらの取り組み・制度は、従業員数でみた企業規模の大きい企業ほど導入・実施している割合が高い傾向となりました。

従業員支援はプラス効果

(1)長時間労働の管理・抑制、(2)社員教育、(3)自己啓発の支援、(8)シニア層の活用、(9)子育て世代の支援等については、
既に多くの中小企業が導入・実施しており、そのプラス効果も十分に感じているようです。

ライフ・ワークバランスは未知数

(9)子育て世代の支援、(10)妊娠・出産期の女性支援、(11)介護離職の防止は、多くの企業で導入・実施されているものの、対象者・利用者が比較的少なく、効果は分からないとする企業が多いという結果になりました。

働き方を変える施策は導入が進まず

(4)在宅勤務、(5)モバイルワーク、(6)サテライトオフィス、(12)外国人労働者の活用は、適した仕事・職種がない、または対象者がいないと考えられているため、導入・実施が進んでいないようです。(7)副業・兼業の容認については、業務上の支障があると考え、導入・実施していない企業が多いようです。

人件費への充当を目的とした施策も登場

平成29年4月、セブン-イレブン・ジャパンは、加盟店のロイヤリティの引き下げを発表しました。これにより、引き下げ分を人件費などへ充当させ、人手不足の解消を図る狙いがあるようです。業界トップである同社が、これまで聖域とされてきた「ロイヤリティ」の見直しに着手した意味は、計り知れません。

総務省発表の完全失業率は、平成29年4月は前月と同じ2.8%と低水準であり、現状では日本の失業率は完全雇用とされる3.8%(OECD参照)を下回っています。需要があればすぐに供給するのが本来の企業の姿であると思われますが、各種統計からは、人手不足でサービスやモノを供給しにくいという状況であるといえます。

企業経営者の本音としては、高い生産性が見込まれる正規雇用の若手労働者の確保が最も望まれていますが、少子高齢化の今、大企業に比べ中小企業ほど、若手労働者の確保は難しい傾向にあるようです。

そのため、「働き方改革」で示された12の施策を用いて、労働生産性の向上を図るとともに、女性・シニア層の活用が、今すぐにできる施策となるでしょう。これからの時代を乗り超えていくためには、こうした施策を導入・実施し、働きやすい環境の整備を進めることが、企業の成長戦略の重要な柱となるでしょう。

 

中村亨のビジネスEYE メールマガジン
日本クレアス税理士法人|日本クレアス税理士法人│コーポレート・アドバイザーズでは、会計の専門家の視点から、経営者の次の智慧となるような『ヒント』をご提供しています。
> 日本クレアス税理士法人 サイトTOPに戻る <