躍進するヒューリックの成長の秘訣(1)-ビジネスモデルの転換(Vol.324)


中村 亨の【ビジネスEYE】です。

不動産業界では異色となる銀行系不動産会社のヒューリック。平成20年の上場以降、8年連続で最高益を更新し続けるなど、破竹の勢いで成長を続けています。

本日のメルマガでは、躍進するヒューリックの成長の秘訣に迫ります。

不動産業へビジネスモデルの転換

ヒューリックは、1957年富士銀行(現みずほ銀行)の店舗管理を行う「日本橋興業」として設立されました。金融危機の影響で銀行が不良債権処理を進めるなかで、日本橋興業はみずほ銀行から含み損を抱えた物件を取得することになり、財務を圧迫させることになりました。

そうした危機にあって同社を変えたのは、2006年にみずほ銀行副頭取から社長に就任した西浦三郎氏でした。西浦氏は「第二の創業」を掲げ、所有物件の建て替えを行い、高層化することで賃料収入を増やす方針をとりました。

その代表例が「ヒューリック銀座数寄屋橋ビル」(2011年3月竣工)です。元々はみずほ銀行の関連会社が入居していたビルでしたが、イメージを刷新し、地下4階地上11階建てにしました。米アパレルブランド「GAP」の入居も決まり、賃料収入は改修前の倍以上となったそうです。

その後、2007年に現在の社名であるヒューリックに変更されましたが、旧富士時代の支店ビルなど、通常は容易に取得できない超好立地の物件を数多く所有していることもあり、好業績を生んでいます。

業績は絶好調 ~業界第4位の株式時価総額~

オフィスビル等の賃貸事業を中核とするヒューリックは、収益性の高い優良物件を選定する「目利き力」に定評があります。

不動産投資の世界では「有力な買い手」といわれ、多くの物件がヒューリックに持ち込まれます。明確な事業戦略における基準や不動産投資のノウハウを持っているため、持ち込まれた物件を「買う」「買わない」の判断を迅速に行う強みを持っています。また、積極的にM&Aを実践しており、2012年に不動産中堅の昭栄と合併して以降、過去最高益を更新し、2016年連結で営業利益は533億円、純利益は348億円となっています。

不動産業界での売上高ランキングでは、ヒューリックは12位(2,157億円)に甘んじていますが、時価総額ランキングでは、財閥系トップ3である三菱地所、三井不動産、住友不動産に次ぐ、第4位のポジションを得ています。

目利き力 ~「東京・駅近」に集中させる~

時価総額を押し上げている理由としては、築浅・築古物件をバランス良く保有していることに加え、オフィス・商業施設用のビルを「東京・駅近」に集中させていることがあげられます。「東京・駅近」のビルであれば、高い家賃や低い空室率を実現できるからです。

例えば、日本屈指の高級商業地である銀座・有楽町エリアには、13物件を保有。加えて、千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区の都心5区と、観光の要地である浅草エリアに豊富な物件を保有しています。

【代表的なヒューリックのビル】

表参道駅より徒歩 1分「ヒューリック青山ビル」(1978年11月竣工)
銀座駅より徒歩1分の「ヒューリック銀座数寄屋橋ビル」(2011年3月竣工)
新宿駅より徒歩 1分の「ヒューリック新宿ビル」(2014年10月竣工)、

その上、特徴的なのが、みずほFGをはじめとした安定したテナントによる長期マスターリース契約が多い点です。これにより、継続的に安定した収益構造となります。

さらに、事業戦略として「やること」と「やらないこと」を徹底しているのが特徴です。事業戦略をみてみましょう。

【ヒューリックの事業戦略】

◇注力分野(やること)
1) 東京・駅近の好立地(東京23区内が76%を占める)
2) 最寄り駅から1分以内の物件が37%、2~3分が30%である
3) 中規模オフィス(1フロア300~500坪)

◇非注力分野(やらないこと)
1) 地方都市のオフィス
2) 大規模開発案件
3) Sクラスビル(1フロア500坪の超大型案件)

財閥系の三菱地所、三井不動産、住友不動産が多く手掛けるような大規模開発やSクラス物件(六本木ヒルズのような1フロア500坪以上の超大型案件)を手掛けず、財閥系と競合しない戦略で勝負しています。こうした競合を避ける戦略や、自社の強みを最大限引き出す仕組みがヒューリックの時価総額に反映されているのでしょう。

次号では、ヒューリックが進める多角化戦略である、3K(高齢者・観光・環境)ビジネスについてもお伝えする予定です。

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